「野菜宅配」競争が激化している。食品宅配の総市場規模は1兆6806億円(2010年度)で、ここ数年、堅調に成長中だ(矢野経済研究所調べ)。東日本大震災以降、食の「安全・安心」への関心は高まり、生産者の顔の見える野菜宅配市場もすそ野を拡大させている。
そんな中、7月にはレシピサイトを運営するクックパッドが、新たに宅配サービス「やさい便」の全国展開を始めた。月間利用者数が2000万人を超え、女性の3人に1人が利用するといわれる人気レシピサイトの参戦で、野菜宅配市場はますます活況を呈する模様だ。クックパッドの特徴は、レシピを活用できること。はじめての野菜でも安心と、「お買い物の脱マンネリ」を提案する。
この分野では、これまで「御三家」と呼ばれる3社が主にしのぎを削っていた。以下に紹介しよう。
■大地を守る会
1985年に日本で初めて有機野菜の宅配システムを開始。スーパーマーケットなどへの卸し事業や国産有機野菜を使ったレストラン事業も展開する。2004年からは、国産木材100%使用の自然住宅事業を開始、これまでに100件を超す新築住宅を供給する。
■らでぃっしゅぼーや
契約した農家で収穫した有機野菜・低農薬野菜の「セット」を、会員に週1回宅配する。1988年からサービスを開始し、宅配サービスの中でも草分け的存在だが、今年2月にNTTドコモが子会社化した。
■Oisix(おいしっくす)
2000年に創業し、急成長を遂げている有機野菜などの食材宅配企業。入会金・年会費・利用料が無料で、宅配の頻度、日時の指定、野菜のセレクトなどの自由度が高い。最近は、自然派化粧品のLUSH(ラッシュ)とのコラボレーションも話題に。
上記のほかにも、野菜に限らないが、食品宅配業への参入が相次いでいる。ネット通販大手の楽天も7月に「楽天マート」を設立し、食品宅配サービスを開始した。すでに実績を上げているイトーヨーカ堂、セブンネットショッピング、生協(コープ/COOP)の宅配・パルシステムなどもひしめく。
宅配業者の広がりとともに利用者の多様化も進んでいるようだ。ある宅配業者は語る。
「少し前まで、野菜通販といえば、食に敏感で、子どもに良いものを食べさせたいと願う母親の利用が多かった。ですが、スーパーやコンビニの参入で身近になったのか、こだわり派だけではなく、身者世帯や共働き世帯、重いものを持つのが大変な高齢者世帯へと広がっており、ニーズも多様化しています」
消費者としては、選択肢が増えるのは喜ばしいことだ。一方、競争が激しくなる企業側はどうか。流通アナリストでプリモリサーチジャパン代表の鈴木孝之氏はこう解説する。
「多くの企業にとって、野菜は“入口”でしょう。そこから他の食品、生活用品、将来的には掃除などの家事代行までを見据えていると思います。そのためには、顧客とコミュニケーションを図り、リレーションを築く必要がある。宅配は“御用聞き”の復活だと私は考えています。企業によっては配送スタッフを固定化するなどの工夫を行なっている。まずは野菜で、どこまで顧客の御用を汲みとれるかが重要になってくるでしょう」
すでに“御三家”の異業種進出も始まっている。新規参入のクックパッドも、食材宅配を皮切りに、美容・健康といった分野にもサービスを展開していく考えだという。野菜を出発点として、どこまで飛躍できるかが勝負の鍵になりそうだ。