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動物駆除 自衛隊が担当すれば鉄砲使用の訓練にもなると識者

 80歳以上限定のオピニオン企画「言わずに死ねるか!」は『週刊ポスト』の名物特集。今回は、霊長類学者の河合雅雄氏(88)が、近年、頻繁に起きている動物たちの反乱と自然保護について提言する。

 * * *
 近年、クマやサル、シカ、イノシシなんかが街に降りて来て被害をもたらすようなことが頻繁に起きていますが、私はそれを動物たちの「反乱」だといっている。

 動物たちが街に降りてくるようになった大きな理由は、里山がなくなったことです。日本では農産物の価格が不当に安く抑えられていることで、農業を継ぐ若者が減っていった。だから山ばかりか、田畑も荒れてしまったのです。

 戦争を知っている私にいわせれば、日本は何にも懲りてない。戦時中はあれほど国民が飢餓に苦しんだのに、農業を大事にしなくてどうするのか。食糧自給率で見ても日本は40%を切っている。もし戦争になっても、食糧の輸入を止められたらすぐに降参しなきゃならない。自国の農業を大事にしなければ、国の未来はありません。

 自然環境に話を戻すと、日本人は動物との付き合い方が未熟すぎる。歴史的にみると、江戸時代まで肉を食べなかったことが原因ではないかと私は考えているのですが、森を管理するうえで植物のことは考慮に入っていても、そこに棲む動物のことはすっぽり視野から抜け落ちている。

 事実、日本の大学に、狩猟学を教えているところはひとつもない。林野庁職員は植物には詳しいものの、動物のプロがいないのが現状です。世界を見渡せば、ほとんどの国に野生動物を管理する省庁が存在します。年間何頭のシカやイノシシを駆除するのか、計画的に行なうから、動物と人間が共存していけるのです。

 それをかわいそうだというのも日本人の悪い癖。シカなどの草食獣が増えすぎたら駆除しなくちゃならないのは当然です。だって、シカの捕食者だったオオカミやオオワシは、絶滅あるいはそれに近い状態にまで減ってしまったんですから。人間がその役割を買って出るしかない。感情論でいうべき問題ではないんです。駆除したシカやイノシシをおいしく食べるなど、有効利用を模索すべきです。

 外来種もそう。アライグマが非常に増えていますが、ペットとして飼いきれなくなった動物を「かわいそう」といって森に逃がすのは本当に間違ったことです。飼いきれなかったら欧米人は放さずに殺します。その覚悟がないなら飼ってはいけない。動物は保護すれば増える。当たり前なんです。

 動物の個体数の管理に関して、私には長年温めている考えがあります。今は猟友会に頼っていますが、これはボランティアであり、高齢化や新規入会者の減少も相まって駆除に限界がきています。これを自衛隊に担当してもらうのです。

 国防とは、いつ攻撃してくるか知れない仮想敵国に対抗することばかりではない。日本は災害大国であり、毎年のように台風が襲い、地震が多発している。必ずやってくるこれらに対応するのは、大事な国防だと私は考えます。そして野生動物による被害も自然災害のひとつです。災害対策部隊に、動物の被害管理に関わってもらえば、銃砲使用の訓練にもなるでしょう。

【プロフィール】
●河合雅雄(かわい・まさを)/1924年、兵庫県生まれ。京都大学名誉教授。サル学の世界的権威で、京都大学霊長類研究所所長、日本モンキーセンター所長などを歴任。児童文学作家としても知られる。

※週刊ポスト2012年10月5日号

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