原発ゼロの目標を盛り込んだ「革新的エネルギー・環境戦略」の閣議決定が見送られるなど、国のエネルギー戦略が揺れている。原発を減らしていくことに異論はないが、その際に障害となるのが「勘違いエコ」だと語るのは大前研一氏だ。以下、大前氏の解説である。
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今夏、政府が行なった2030年の電力に占める原子力発電の割合についての国民的議論では「15%」「20~25%」を抑えて「0%」の支持率が多数を占め、世の中は「脱原発」への動きを加速しようとしている。
『週刊ポスト』の連載で述べたように、この三択論議は無意味だが、これまで全発電量の約3割を担ってきた原発を減らしていくことには私も異論はない。しかし、単に脱原発を進めると火力発電所を増やすしかないので、CO2の排出量が増えるうえ、ますます高い金を払って原油やLNG、石炭など化石燃料を輸入するしかなくなる。
なぜなら、再生可能エネルギーのうち操業度が15~20%でしかない風力発電と太陽光発電は実に気まぐれな出力で、ベースロード(ある期間内における発電所の最低負荷)用の発電装置にはなり得ないからだ。地熱は操業度85%だが、日本中の地熱を可能な限り開発したとしても電力需要の5%ほどしか賄えない。結局、ベースロード用の発電装置で原発を代替できるのは火力発電しかないわけだ。
したがって、CO2の排出量を増やさずに原発依存度を0%にしたいなら、日本はさらなる節電・省エネに、国を挙げて取り組まなければならない。
その場合に困るのは、勘違いのエコである。その代表は、日産の電気自動車『日産リーフ』のCMに出演する一方で脱原発を訴えているミュージシャンの坂本龍一氏だ。
電気自動車がエコなのは、原発があるからだ。原発の安価な夜間電力(昼間の3分の1の電気料金)で充電できたので、ガソリンとほぼ同等のコストになっていたのである。原発がなくなって電気料金が昼夜一緒になったら、燃費はガソリンの3倍になってしまうし、電気自動車のために化石燃料を燃やしてCO2排出量を増やすわけだから、全くエコではない。
つまり日本の電気自動車は、そもそも原発があって初めて成り立つ産業なのである(水力発電中心のカナダやスイスは別)。電気自動車に乗りながら脱原発を叫ぶのは矛盾したことなのだ。
※週刊ポスト2012年10月5日号