【著者に訊け】
『抗争』(溝口敦/小学館101新書/735円)
『ヤクザと原発』(鈴木智彦/文藝春秋/1575円)
昨年10月に「暴力団排除条例(暴排条例)」が東京都と沖縄県で施行され、全都道府県で施行された。それから1年、暴力団はどう変わったのか。そして、今後どう変わっていくのか。最前線で取材を続けてきた2人だからこそ語れる「ヤクザの未来」。
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鈴木:最近、暴力団の資質というものが変わってきたと感じます。タバコを吸わない組長や総長が増えて、深酒しないどころか、早寝早起きでウォーキングなんかしている。ヤクザのくせに健康気にしてどうするんだって言いたいですよ。
溝口:親分連中は食えているんです。だから自分の健康が気になるし、今の地位に固執する。一方、若い連中はいつまでたっても上にいけないから鬱屈する。暴力団という組織そのものが硬直化しているんです。
鈴木:ヤクザに必要なのは「契り」であり「金」だという時代がありました。ところが最近は、誰に聞いても「運」だと言います。ヤクザが「運」だなんていう時代だから、派手な抗争も起きない。ヤクザのことを書いてきた身としては、1984年に始まった山口組と一和会による山一抗争の時代を生きた溝口さんが羨ましい(笑い)。
溝口:山一抗争のときは毎週、大阪や神戸に行ってましたよ。それこそ暴力団に関心のない評論家でさえ、「王将を取られたら将棋は終わり」なんてコメントしていた。でも、もう二度とあんな抗争は起きないでしょうね。
中野会による宅見勝・山口組若頭射殺事件くらいの規模ならやってやれないこともないだろうけど、それだけの胆力というか、メチャクチャやるヤクザなんて今どきいませんよ。動きがないときに書くとトラブルの元だし、最後に今書いている本を出したら、もう暴力団について書くのはやめようかと思ってます。
鈴木:お気持ちはわかりますけど、それじゃ私たちの“風よけ”がいなくなるから困ります(笑い)。
ヤクザに動きがないという点では、ある雑誌なんて毎月組の定例会に行って、「●時●分、●●組長到着」なんてことを延々と書いています。取材記者も組とベッタリで、最近はお年玉まで貰ってるというのだからあきれますよ。組長名義で3万円、若頭名義で1万円という具合。しかも事前に住所・氏名を申請しているんだそうです。公官庁の記者クラブと一緒で、すっかり取り込まれてしまっている。これじゃあ何も書けないですよ。
溝口:金はもらっちゃいかんですね。僕も細木数子絡みで、あるヤクザに封筒を押しつけられたことがあります。断わるのに難儀したんですが、100万円くらい入ってるのかなと思っていたんです。その後細木数子が名誉毀損で6億円の裁判を仕掛けてきて、自衛上そのことを話したら細木側の証人に立ったそのヤクザが「50万渡したけど受け取らなかった」って。何だ、口止め料は50万だったのかよって(笑い)。
※週刊ポスト2012年10月5日号