日の丸家電の凋落が激しい。だが、今後のやり方次第では、将来有望な輸出産業が生まれると主張するのは大前研一氏だ。氏が注目するのは「スマートハウス」。以下、氏の解説である。
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シャープ、パナソニック、ソニー、ルネサスエレクトロニクス、エルピーダメモリなど、輸出大国・日本の象徴でもあった家電産業や半導体産業がチャイワン(中国+台湾)勢と韓国勢の台頭によって苦境に陥っている。残念ながら、これはビジネス新大陸の歴史の必然であり、その流れが反転することはない。
ただし今後の“選択と集中”のやり方次第では、日本に将来有望な新しい輸出産業が生まれると私は考えている。その一つが「スマートハウス」(家電や設備機器を情報化するとともに気密性・断熱性を高めてエネルギーを最適制御する住宅)だ。どういうことか?
私は、日本の成長戦略の一つとして、5年以内にエアコン・洗濯機・冷蔵庫など家電製品の電力消費量を半分にすることをメーカーに義務付けることを提案したい。この目標を定めれば、日本の技術力なら結果的に50%は無理でも30%は達成できるだろう。そうすると原発がゼロでも電力は足りるようになるわけだ。
そのようにして家電や住宅設備機器の分野で世界トップレベルのエコ・省エネ技術を磨いていけばどうなるか? それはそのまま世界トップレベルのスマートハウスにつながるのである。
日本には売上高1兆円クラスの住宅メーカーが3社(大和ハウス工業、積水ハウス、住友林業)ある。他の国では地域に密着した地元工務店のような小さい会社があるだけで、日本のように大規模な住宅メーカーは存在しない。
ところが、日本は規制が多かったり、トイレやガラスや石膏ボードなどの供給者が独占企業であったりするため、資材が高くて家の輸出ができなかった。しかし、スマートハウスなら太陽光パネルや家電製品を含めたワンセットで有力な輸出商品となる。規制を撤廃して現地の資材を使えるようにすればコストは安くなるし、寡占状態にあぐらをかいてきた建材メーカーも価格を下げざるを得なくなるだろう。
すでに日本の住宅メーカー各社はスマートハウスを商品化しているが、まだ太陽光発電と蓄電池に「HEMS(Home Energy Manage ment System/センサーやITの技術を活用して住宅の機器を一括コントロールし、エネルギー使用量を自動的に最適化するシステム)」を組み合わせたレベルだ。今後は家電メーカーなどと協同してさらなる省エネを推進するとともに、家自体のエネルギー効率を上げなければならない。
実は、もともと日本の家は気密性・断熱性が低く、冷暖房の効率が非常に悪い。だから気密性を高くすると同時に、窓、屋根、床などからエネルギーが漏れない断熱構造に改善することでまだまだ“進化”できる。
※週刊ポスト2012年10月5日号