80歳以上限定のオピニオン企画「言わずに死ねるか!」は『週刊ポスト』の名物特集。今回は俳優の大村崑氏(80)が、昨今の“一発ギャク”が主流のお笑いブームに一石を投じる。
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最近つくづく感じるのは、本物の喜劇人がいなくなったということです。ちょっと器用な素人がテレビで同じギャグを繰り返し、観客もそれが笑うシーンだと思い込んで盛り上がるから、ウケている、人気があるんだと勘違いしている。そんな薄っぺらな若いお笑い芸人ばかりで情けなくなります。
笑いの基本はアドリブです。アドリブを身につけるためには板の上、つまり舞台で修行するのが一番。稽古の時でも、一生懸命アドリブをやって監督やスタッフにウケようと頑張るから伸びていきます。しかも本番の舞台は一発勝負。やり直しがきかないので緊張感が違います。
それに比べてテレビは後で編集できるから真剣さが足りません。昔は生放送でしたから、何が何でも時間通りに終わらせるという緊張感がありました。本番中も丁々発止のアドリブをやり取りしながら、一方で時間を計算してやっているのですから鍛えられました。
その緊張感の中で、喜劇にとって一番重要な“間”を身につけることができました。悲しいことに、喜劇とは“間”であるということを今の若いお笑い芸人たちは忘れています。
本物の喜劇人は1日、2日で育つもんじゃありません。昔は北島三郎さんや八代亜紀さんたちの舞台で勉強したものです。涙と笑い、人情が凝縮された舞台に立って、北島さんや八代さんの芝居の中で、私たちも必死になってアドリブで返す。大事なのは、そのやり取りなんです。
笑いの中には必ずペーソスが必要です。ペーソスが舞台に深みを生み出すのですが、今の若い芸人は「笑いは“笑い”だけ」と思っているからダメなんです。だから一発ギャグばかりで、テレビを消すと何も残らない。
【プロフィール】
●大村崑(おおむら・こん)/1931年、兵庫県神戸生まれ。1958年、テレビデビュー。『番頭はんと丁稚どん』『とんま天狗』などに出演。オロナミンC、ダイハツミゼットのCMなどで国民的タレントとなる。
※週刊ポスト2012年10月5日号