大統領選の投開票まで1か月あまりとなった米国では、民主党・オバマ、共和党・ロムニー両陣営がラストスパートに突入しているが、1年以上に及ぶ長丁場の選挙戦で注目を集めてきた政治的運動がある。共和党保守派による「ティーパーティ運動(以下、TP)」だ。
「反リベラル」「小さな政府」を掲げるTPは、オバマ政権が推進する増税や政府支出の拡大を批判してきた。標的は民主党だけではない。共和党の穏健派にも容赦ない批判を浴びせ、大統領候補指名争いでは穏健中道派のロムニー氏の選出を阻止する「ストップ・ロムニー運動」を展開した。
TPは全米で大小約650団体があるとされるが、その中心となるのは約10団体の全国的組織だ。そのうちの一つでカリフォルニア州に本拠を置く「ティーパーティ・エクスプレス(TPE)」は、積極的に「落選運動」を展開している。
TPEのウェブサイトは、日本人から見ると実に“扇情的”かもしれない。選挙ごとの「ターゲット」が顔写真付きで紹介され、あたかも西部劇に登場する「WANTED(指名手配)」写真のようだ。
今年5月に行なわれたインディアナ州上院選の共和党予備選では、TPEは連続当選6回を誇る共和党重鎮・ルーガー上院議員を敗北に追い込んだ。ルーガー氏が大手金融機関の救済法案に賛成するなど、オバマ政権の財政出動政策に協調したことがその理由だ。そしてルーガー氏が敗れると、その顔写真には「DEFEATED(落選)」の赤字が上書きされた。
ウェブサイトでは、何と「落選させるための寄付」ができる。運動の賛同者は、寄付という形で落選運動に参加するのだ。
「寄付金はプールせず、すぐに活動に投入する。2009年2月の発足以来、われわれは全米を横断するナショナル・バスツアーを実施し、300回以上のTP集会を実施しました。“ターゲット”の議員の選挙区に出向き、その議員がいかに財政出動拡大などに加担してきたかを訴えています」(TPE広報担当者)
そうした活動は随時TPEのフェイスブックに掲載されるほか、地元のカリフォルニア州ではテレビCMを展開して、落選運動を呼びかけている。
「米国では2010年の最高裁判決を受け、政治活動の自由の観点から『スーパーPAC(政治行動委員会)』という、特定の候補者や政党と直接の協力関係を持たない政治団体が認められるようになった。
スーパーPACには献金額の制限がないので(個人からの献金は候補者1人の1回の選挙につき2000ドル、PACを通す場合は5000ドルの上限がある)、その潤沢な資金を対立する候補者の批判に注ぎ込んでいるのです」(米パシフィック・リサーチ・インスティチュート所長・高濱賛氏)
ちなみに前出のTPEは2年前の中間選挙に際して530万ドルを集め、そのうちの520万ドルが活動資金に投入された。批判のための運動に大金が投じられることには米国内でも批判の声はあるが、落選運動の高まりの背景には、政治活動資金に関する制度変更も大きく関係しているようだ。
※週刊ポスト2012年10月5日号