不振が続く国内のテレビ市場において、次世代機との呼び声が高い「4Kテレビ」。昨年、世界に先駆けて発売した東芝に続き、ソニーが84インチという超大型の液晶4Kテレビ『ブラビア(KD―84X9000)』を11月23日に発売することを決めた。
ソニーも「まるで実物を見ているかのようなリアルで美しい映像が広がる」と謳う4Kテレビは、フルハイビジョン(HD)の約4倍もの解像度を持つことで、巨大な画面に近づいてもぼやけることのない高精細映像を楽しむことができる。
しかし、「従来のテレビと圧倒的に違うレベルに達しているかといえば疑問」と厳しい評価を下すのは、『さよなら! 僕らのソニー』の著者でノンフィクション作家の立石泰則氏。
「確かに顔のアップなどカメラの焦点が合っている部分はキレイに映りますが、背景は少しぼやけていますし、サッカーのような激しいスポーツを観ると、きめの粗さが目立つ。84インチまで大きくしてしまうと4Kでも画素数が足りていない気がするんです」
ソニーが映像の精細度合いを落としてまで大画面にしたのには、苦しい台所事情も関係している。自社の液晶パネル事業から撤退し、韓国・LGエレクトロニクス製の4K液晶パネルを採用しているために、「韓国で主流の84インチ以外で特別に供給してもらうことは不可能だった」(業界関係者)との見方が強いのだ。
8期連続赤字、累積赤字約7000億円とされるソニーのテレビ事業。自社技術を捨て、縮小に次ぐ縮小をしてきたツケが回っていると指摘するのは、前出の立石氏も同じ。
「早くからソニー独自のデジタル高画質技術『DRC』を捨て、ハイエンド(上位機種)商品からボリュームゾーンの低価格商品で勝負しようとしましたが、結局はハイセンスなどの中国勢や韓国勢に負けてしまった。だからといって、また時流に乗ってハイエンドに戻そうとしても空白期間をすぐに埋めることはできないのです」
空白の間には多くの優秀な技術者も失った。いま、その中の一人が4Kテレビでソニーの前に大きく立ちはだかっている。それがDRCの開発者、近藤哲二郎氏(現アイキューブド研究所社長)である。
「近藤さんが所属していたソニーの研究所はリストラによって組織ごと解体され、2009年に約20名の研究員とともにアイキューブドを設立しました。近藤さんはそこで新しい4K映像技術の『ICC』を発表し、シャープを提携相手に選んで製品化を目指してきました」(前出・業界関係者)
近藤氏の技術の粋を集めた60インチ程度の4Kテレビは、満を持して年内に発表される予定になっている。
「シャープの前途は多難ですが、近藤さんが開発したICC技術は画面すべてに焦点が合う最高峰の技術。3Dでなくても遠近感が認識でき、人間が自然に見ている光景にいちばん近い機種になるでしょう。これでシャープの技術が見直されたら『液晶のシャープ復活』と状況が変わる可能性も秘めています」(立石氏)
「2013年度はテレビ事業の黒字化が大命題」と繰り返すソニーの平井一夫社長。その大きな目標を達成する前に、自社の礎を築いた元ソニー技術者との4Kテレビ対決が待っているとは、何とも皮肉な運命だ。