風に揺れるコスモスが赤と白のつぼみをつけていた。「真心」の花言葉を持つこの花が植えられていたのは、日本中を騒がせたあの事件の被告が住んでいたアパートの跡地だった。
「アパートを壊して、代わりにコスモスを植えたのよ。ひどいゴミ屋敷でね、きれいに元に戻すには168万円もかかるっていうて。汚いっちゅうようなもんじゃない。あそこにあったゴミを運んでもらうだけでも4トントラックで19回、19万6000円もかかったんよ」
大家の女性の怒りの矛先が向かうのは、取り壊されたアパートの居住者。2009年11月に知人の母親から126万円を騙し取った詐欺容疑で逮捕された元デブ専ホステス、上田美由紀被告(38才)だ。
その後、上田被告と面識のある6人もの男性が次々と不審死を遂げていることが明らかとなった。その詳細は下の相関図にあるとおり。6人のうち4人が被告と恋人関係だったという。
被害者のうち、矢部和実さん(享年47)、円山秀樹さん(享年57)、田口和美さん(享年58)の遺体からは、睡眠導入剤のハルシオンと風邪薬の成分がまったく同じ組み合わせで検出されている。その後の調べで、矢部さんと円山さんに対する2件について強盗殺人事件で再逮捕された上田被告は、ほかにも詐欺や窃盗など計16もの罪で起訴された。
しかし、この事件が大きく取り上げられることとなったのは、同時期に発生したもうひとつの事件が理由だった。
今年4月、1審で死刑判決が下された木嶋佳苗被告(37才)が起こしたとされる連続不審死事件だ。
2009年9月、結婚詐欺で金を騙し取った容疑などで6回にわたり逮捕された彼女もまた、周囲の男性が不審な死を遂げていた。結局、そのうちの3人の死に木嶋被告が関与したとされ、殺人容疑で再逮捕。そして4月の死刑判決となった。男性に貢がせた金額はおよそ1億円ともいわれている。
ともに同年代、体形もLLサイズでお世辞にも美人とはいえないふたり。犯行も同様の手口とあって、当時はその類似性ばかりが注目されたが、木嶋被告の全公判を傍聴し続け、今回の上田被告の初公判も傍聴したコラムニストの北原みのりさんはこう指摘する。
「見た目と世代が同じというだけで、上田被告と木嶋被告の“ブスの手練”はまったく違います」
まず北原さんが着目したのは、ふたりの被害者男性との出会い方だった。
「木嶋被告が犯行に使っているのは、インターネットの出会い系サイトや婚活サイト。事前に相手のステータスを確認し、自尊心が高く女性からの頼みを断れないタイプを選び、そこでお金の相談をする。
一方、上田被告の場合は近くにいる悩みを抱えているような男性を見つけている印象です。木嶋被告のように着飾ることはなく、ざっくばらんで、しかも小さい子供もいる。そこに何か安らぎのような、精神的に深くのめり込ませてしまう要素があるんでしょう」
そうした手練の違いを生んだのは、「生まれ育った家庭環境にあるのではないか」と北原さんは指摘する。
行政書士の父を持ち、小中高時代の成績はトップクラスで、東京でのセレブな暮らしに憧れていた木嶋被告。それに対し、上田被告は早くに父を亡くし、叔父の手を借りて育った。その後、自衛官と結婚し、子供をもうけるもすぐに離婚。以来、鳥取駅前の比較的リーズナブルなスナックなどで働いている。
「男からお金を引き出して、自分のキャリアを磨こうとした木嶋被告に対し、上田被告には上昇志向があるわけでもない。離婚後の職業の選択肢も少なく、狭い人間関係のなかで暴れることしかできない田舎のヤンキーのようなタイプなのでしょう」(前出・北原さん)
※女性セブン2012年10月11日号