今季、各地の球場は赤く染まった。広島カープの快進撃で、「15年ぶりのAクラス」も夢ではなくなった時、広島ファンが大挙してスタンドに押し寄せ、心を躍らせながら声をからしたのだ。しかしそれは、“真夏の夜の夢”でしかなかった。Bクラスに沈んだ理由は何だったのか。赤ヘル軍団の黄金期を知る3人の重鎮OBが、その理由を語り尽くした。
達川光男:「ペー(北別府)は何位と予想しとったんかね」
北別府学:「2位ですね」
達川:「僕も2位。表向きは3位にしたけど、2位もあるじゃろうと思っとった。安仁屋さんは1位でしょ」
安仁屋宗八:「僕は毎年、優勝としか予想せんから(笑い)」
北別府:「投手力を考えたら広島が2位でもおかしくなかった。でも誤算は打線」
達川:「やっぱり栗原(健太)の不在が響いたね。アイツは昨年も夏場に打ったから、栗原がいれば結果は変わっていたと思うよ」
――勝負はどこで決したでしょうか。
達川:「9回にミコライオが試合をひっくり返された、9月17日のヤクルト戦。あれでチームがガックリきた。勝っていれば3位になっていたと思う。ミコライオが悪いわけじゃないが、あそこが分岐点になった」
北別府:「9月の勝負の9連戦は結局8敗。でもよくやったと思います。特に投手陣はよく踏ん張った。あれだけ打線が湿っていると、普通は“どうせ打てない”と気落ちしてガタガタッといってしまうが、大量失点はしなかった」
――前田健太ら、表ローテーションを横浜などの下位にぶつけた野村監督采配に、疑問の声も上がりました。
北別府:「いや、表ローテはうまく回っていた方でしょう。問題は完投が少なすぎたこと。中継ぎを使いすぎるから、大事な9連戦でバテた。完投できる試合は先発に完投させるべきですよ。野村(祐輔)なんか、100球投げていないのに交代していましたからね」
安仁屋:「昔の投手は交代といわれても、“自分で行く”といったもんだ。北別府なんか特にそう。僕が投手コーチの時、マウンドに行くと、“次は誰が投げるんですか?”と聞いてきた。名前を伝えると“じゃあまだ投げます”という(笑い)」
――その投手とは……?
達川:「名前はいえんけど、左の山本和男やね」
北別府:「ちょっと待って下さいよ(苦笑)」
安仁屋:「次が大野(豊)とか津田(恒実)というと素直に交代したな(笑い)」
北別府:「いや、山本さんだからじゃなくて、6回、7回までコツコツ積み上げてきた勝ちゲームを消されたら敵わないからですよ。僕らは今の選手みたいに、6~7回じゃ仕事をした気にならなかった。完投して白星という結果が出て初めて、満足感があったんです」
達川:「確かに今は100球が目安やからね。昔は1イニング15球として、目安は150球やった。ペーは見せ球を使うタイプやから、大体毎試合180球くらい。川口(和久・現巨人コーチ)も200球近く投げた」
安仁屋:「今は完投できない。(前任の)ブラウン監督の4年間で、投げ込み、走り込みが減ったことが原因やね。この4年を取り戻すのは大変です。野村監督は一番厳しい時にチームを引き受けたと思うよ」
達川:「投球術も未熟じゃね。インコースに投げられる選手がいない。インコースのボール球から入れる投手は一流、といわれたけど」
北別府:「あれだけ巨人に負けたのも、阿部(慎之助)と中途半端な勝負をしすぎたから。今年の阿部は下手に勝負したらダメ。僕が現役なら(阿部を)ひっくり返してますね。インコースの際どいところを狙って狙って、最終的には歩かせてもいい」
達川:「外ではなく内で勝負した結果歩かせるならOK。安仁屋さんもベンチから“外で歩かせるな!”って怒鳴りよったもんね」
安仁屋:「外で歩かせるくらいならぶつけろ! といってね(笑い)」
達川:「念のためいうけど、それくらいの気持ちで、ということやからね(笑い)」
北別府:「インコースを見せ球にしてファウルを打たせ、最終的にはアウトコースの球で抑える。今のほとんどのカープの投手は、それができない。インコースのサインに首を振るからね。まァ、若いヤツに首を振られまくる捕手の石原(慶幸)も問題とは思いますけど」
安仁屋:「もっと思い切ってやればいい。野村監督が掲げた今季の目標、“破天荒”を感じなかったなァ」
北別府:「破天荒じゃなくて“不健康”でしたね」
達川:「気持ちくらいはせめて巨人に勝たんとな」
安仁屋:「ちゃんと内角に投げられていたのは、大竹(寛)とか19日のヤクルト戦で初先発した中崎翔太くらいかな。危険球退場になったけど、それだけ内角に投げられていたということ」
達川:「昔、安仁屋コーチのミーティングは“思い切っていけ! ぶつけたらワシが行くけえ!”で終わりやったもんね(笑い)」
北別府:「有事の時は本当にブルペンから走ってきていましたよ(笑い)」
※週刊ポスト2012年10月12日号