9月26日に投開票が行なわれた自民党総裁選では、安倍晋三・元首相が決選投票の末、逆転勝利した。安倍氏勝利への隠れた決め手になった要素の一つは、対立候補への執拗なネガティブキャンペーン。スキャンダル合戦は総裁選には付きもので、どの陣営でも多かれ少なかれやるものだが、安倍陣営には情報戦が得意な側近が多く、他陣営を圧倒した。
まず本命と見られていた石原伸晃氏に記者会見で痛打を浴びせたのが麻生太郎・元首相だ。
「下克上とか平成の明智光秀とか、ありがたくない冠をこの人は当分頂くことになる。私の人生哲学には合わない」
幹事長として谷垣執行部を支える立場の石原氏が出馬したことを批判し、“石原=光秀説”を広めた。ちなみに、執行部の一員という点では政調会長代理の林芳正氏も同じはずだが、もっぱら石原氏のみを標的にした。
麻生氏は首相時代、「漢字が読めない総理」といわれて国会での答弁資料にはルビがふられていたことで知られる。石原氏も総裁選の街頭演説でしばしば漢字の読み方を間違え、「石原総裁なら麻生2世になる」と話題になった。麻生氏が、「石原を支持する連中の気が知れない」というほど敵意をむき出しにしたのは似たもの同士の近親憎悪だったのかもしれない。
裏の情報部隊もあった。新聞や雑誌の記者たちに「スキャンダル通信」を流していたのが入閣待望組の議員。対立候補のマイナス情報を熱心に収集しては、親しい記者たちに、「いいネタがあるんだ。書いてくれないかな」と、連絡を入れ、“スクープ情報”を配信していた。
情報部隊の働きによって、町村信孝氏の元秘書である北海道議の母親が生活保護の“不正受給”をしていた問題が広まり、石原氏が議員たちに送った「叔父・裕次郎の記念切手付きの挨拶状」などが次々に報じられた。
メディアも援軍につけ、安倍氏に近い全国紙の記者は、「石破氏の銀座のクラブ通い」や「隠し子疑惑」を言いふらし、銀座でも石破スキャンダルが話題になっていたほどだ。
紙爆弾も乱れ飛んだ。自民党議員に配られた『石破茂 石原伸晃の真実』と題した怪文書は、石破氏の自民党離党から復党までの政党遍歴や石原氏のピンボケ発言集と大した内容ではないが、安倍氏のライバル2人を集中攻撃した。
「誰が書いたかは知らないが、有力候補3人の中で安倍さんのことだけ書かれていないのは、怪文書にしても出来が悪すぎる」と石原陣営幹部は呆れていた。
※週刊ポスト2012年10月12日号