ゴルフは審判がいない唯一のスポーツだ。ショットの結果は自己責任。蛮勇を奮えば痛い目に遭い、臆病になればスコアは伸びない。それが「究極の個人競技」といわれる所以である。
だが、「己との闘い」を根幹に置くゴルフであっても、ギャラリーを興奮させる試合には、必ずといっていいほど好敵手同士の切磋琢磨があった。
女子ツアー通算41勝(永久シード)の実績を持つ森口祐子プロはいう。
「樋口久子プロと清元登子プロ、大迫たつ子プロと岡本綾子プロというように、ライバル関係にある選手が鎬を削ってきたことが、競技のレベルアップと人気の拡大に繋がってきました。
最近では6年連続賞金女王となった不動裕理プロが一時代を築きましたが、彼女にはライバルと呼べる存在がいなかった。卓越した技術は誰もが認めながら、不動プロのプレーの記憶がファンにあまり印象づけられないのはそんな理由があるからだと思います」
ライバルの不在は、プレーヤーにとっても不幸なのかもしれない。
5年以上(281週)にわたって世界ランク1位に君臨し、誰もが「史上最強のゴルファー」と認めるタイガー・ウッズには、その座を脅かす存在がいなかった。そんな環境が世界中を騒がす連続不倫スキャンダルに彼を走らせたと見る専門家は多い。
同世代のライバル・宮里藍が主戦場を米国に移してから、横峯さくらの成績がパッとしないのも同じような理由かもしれない。好敵手の存在、好勝負の経験は、選手を成長させ、ゴルフ界そのものを発展させる上で不可欠な要素なのだろう。
好勝負の“条件”は、スコアが接戦であることだけではない。
「繊細なタッチの青木功と豪快な尾崎将司、攻撃的なアーノルド・パーマーと正確無比なショットのジャック・ニクラウスというように、対照的な個性が互角の戦いをするところがゴルフの醍醐味。そんな選手同士が同じコースで互いのスタイルを貫いた時にこそ、名勝負が生まれるのです。近年はプロが皆、同じようなスイングや戦略で闘うので、好勝負が少なくなっているように思います」(ゴルフジャーナリスト・三田村昌鳳氏)
※週刊ポスト2012年10月12日号