【書評】『「持たない」ビジネス 儲けのカラクリ』(金子哲雄/角川oneテーマ21/760円)
【評者】青木均(愛知学院大学教授)
「マイホームの購入はおやめなさい。だって住宅ローンは現代の小作農のようだから」なんて、アドバイスされたらどうしますか?
著者は、そのような刺激的な言葉をちりばめながら、本書でマイホーム購入・賃貸論争に決着をつけています。30年を超える間、ローン返済のために働き、所得の大きな部分を銀行に持って行かれる姿は、作物を収穫してもその大きな部分を地主に取られてしまう小作農のようであるというのです。
そして、苦労の果てに自分の持ち物になったその家は、不動産価格の下落が当たり前の現状では、資産価値はわずかなものになってしまいます。また持ち家があれば、それに縛られて、柔軟にライフスタイルの変更ができなくなります。そもそも今では、30年以上、返済するための安定した収入がある保証はありません。
なぜそういうことになるかといえば、モノの価格が下がって賃金も下がる現在のデフレ経済と、世界中のライバルと戦わなくてはならない変化の速いグローバル経済のためです。
デフレ経済とグローバル経済においては、企業も個人と同じなのです。マイホームを持たないのと同様、企業も、設備や土地、場合によっては従業員を極力もたず、必要な時に外部から借りるなり、一時的に買うなりすればよいとする考え方が重要になってきています。
持つべきものは技術やノウハウで、設備や土地ではないのです。それが「持たない」ビジネスです。そのほうが、特色を出しながら、世の中の素早い変化に対応でき、高い利益を上げることができるのです。本書には、企業の事例として、「持たない」ユニクロやアップルの成功、「持ってしまった」ダイエーの失敗などが収められています。
昨今の経済状況における、企業の「持たない経営論」はすでにいろいろなところで説明されてきました。しかしながら、本書のいいところは、私たちの生活と企業の活動とを一緒に論じているところです。マイホームの購入と、ユニクロの成功やダイエーの失敗とをともに論じているので、難しい経営論も一挙に身近になります。
本書を読んで、「持たないことが大事なのよ」なんて、友人や家族と、仕事や生活のことを経済の問題として、話し合ってはいかがでしょうか。でも、そう解説したら、「じゃあ、バッグもアクセサリーもいらないね」と反撃されそうですが。
※女性セブン2012年10月11日号