海岸に向かって、7隻の黒いゴムボートが次々と近づいてくる。乗っているのは、米軍海兵隊だけではない。離島防衛専門部隊といわれる陸上自衛隊の西部方面普通科連隊を中心にした精鋭が米軍に混じって乗船している。彼らは89式小銃を携えて次々と上陸してくる。
9月26日までの37日間にわたってグアム島で行なわれた日米合同軍事演習は、自衛隊と米軍による初の上陸作戦となった。公式には「島嶼奪還」訓練としかアナウンスされていなかったが、これは明らかに中国による尖閣諸島占拠を想定した訓練である。
実際、自衛隊とともに上陸したのは、陣地作りを担う海兵隊の支援部隊である。おそらくヘリポート造りを想定しているのだろう。離島を奪還する場合、そこに、後続部隊や物資を輸送する拠点を確保することが重要になってくる。そのための訓練なのだ。陸自の精鋭たちは、工作部隊の護衛を担っている。
「今までの合同演習との一番の違いは、米軍が自衛隊を対等なパートナーとして訓練に参加させたことです。それまではあくまでゲスト扱い。ところが今回は、支援部隊の護衛という重要な任務を自衛隊に任せたのです。自衛隊にもっと踏み込んで活動して欲しいという米軍側のメッセージに受け取れました」(現地取材した軍事ジャーナリスト)
訓練決定の経緯からして異例だった。通常の合同演習は1年以上も前に訓練内容が決まるのだが、今回は数か月前に、米軍のリクエストによって急遽行なうことになったという。明らかに中国への牽制である。
それを裏付けるように、去る9月18日、米国のパネッタ国防長官が中国の梁光烈国防相と会談した際、「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲内である」との米政府の見解を伝達している。
輸送ヘリCH 46による空からの上陸・救助、相手がバイオ化学兵器を使用したという想定の訓練……。合同演習は中身の濃いものだったが、一方で、自衛隊の上陸作戦能力の貧弱さも際立ったと、前出の軍事ジャーナリストはいう。
「米軍が、高度な上陸能力を持つ水陸両用戦闘車を有するのに比し、日本はゴムボートです。中国が年々上陸作戦能力を高めている今、これでは心許ない」
尖閣有事の際に、米軍が本当に日米安保に基づき出動してくれるのか、訝る声も聞かれる中、行なわれた合同演習。
米軍頼みの前にまずは自国の防御能力向上が最優先されることは、いうまでもない。
撮影■渡辺英雄
※週刊ポスト2012年10月12日号