野党の党首選に勝っただけで、まるで「次期首相」に内定したかのようなはしゃぎぶりだ。しかし、自民党の安倍晋三新総裁を取り巻く内憂外患は、そうした浮かれ気分などすぐに吹き飛ばすことだろう。安倍氏の至近距離で取材を重ねる長谷川幸洋氏(ジャーナリスト)と鈴木哲夫氏(BS11報道局長)が、安倍自民について語り合った。
鈴木:総裁選を見て思ったのは、自民党はやっぱり何も変わっていないな、と。党員票は一番民意に近い票です。石破は1年以上前から地方回りをやってきて、地方では「この人なら戦える」という空気にようやくなって、1回目の票数(498票のうち199票)に結びついた。それが2回目の議員投票で平気で逆転するんですから。自民党の国会議員たちは、果たして民意を感じ取っているのか疑問です。
長谷川:国民、自民党員、自民党の国会議員。この3つのレベルの意識がみんなズレている。石破が地方票を得たのは、おっしゃるように地方を熱心に歩いたから。次に歩いていたのは安倍で、石原はあまり歩かなかった。結局、地方をこまめに歩いた順に票が入ったということでしょう。先日、森喜朗もいってましたが、地方の自民党員はテレビに出ている議員が来れば、そりゃ喜びますよ。けれど、それと国民の意識はまた違うのではないか。
鈴木:決選投票で最終的に安倍になったのは、永田町ムラの議員心理が相変わらず働いているから。石原では長老の影も見えて選挙の顔としては弱い、石破は嫌いだから入れたくない。対して安倍には今、領土問題などで勢いがあって国民的な人気があると、だから勝ち馬に乗ろうと。完全に国民感覚とズレていますね。
長谷川:石破の議員票は1回目が34票、決選投票が89票だから、党内人気のない彼としては大健闘だったと思う。自民党長老たちは石破が大嫌いで、必死で落選運動をやっていたはず。それなのに55票も上乗せしたのは衝撃的ですよ。派閥の締めつけもきかなかった。石破とは付き合いがないのに投票した議員も相当いたはず。自民党が変わる兆しかもしれないとさえ思う。
鈴木:長老支配や派閥が少しは崩れてきているのは事実ですね。ただ、各候補の陣営の浮かれ具合には呆れました。ホテルに陣取って票読みしながら、まるで与党時代のようなお祭り騒ぎでしたよ。しかも、私は事前に各陣営の票読みを取材しましたが、どれ一つ当たってない(笑い)。
(文中敬称略)
※週刊ポスト2012年10月12日号