出口の見えぬデフレ不況。日本経済はこのままダメになってしまうのでは――その懸念を明快に否定するのが、近著『世界のお金は日本を目指す』(徳間書店刊)が発売1か月で3万部を突破した、気鋭の経済評論家・岩本沙弓氏だ。氏は、「国際金融の現場では、世界は日本に注目している」と断言する。
岩本氏は、借金ばかりでなく「資産」の存在を知るべきと説く。
「日本国内の経済主体である金融機関、企業、NPO、個人(家計)、政府の資産と負債を相殺すると海外に保有する資産がわかりますが、その『対外純資産』が253兆円もある。これはいわば国内では使い切れないお金。仮に日本の財政が逼迫した際には、このお金を国内に戻しにかかるでしょう。
ちなみにこの額は今年で21年連続の世界1位。2位の中国の対外純資産でも138兆円です。“世界一の債権国家”である日本は、『最も破綻から遠い国』といえるのです」
また、「円高は悪ではない」とも述べる。
「昨年は31年ぶりの貿易赤字となりました。これは大震災という、あくまでも特殊な要因によるものですが、メディアは輸出企業の衰退を危惧し、その原因を円高としました。しかし、そもそも『輸出立国・日本』は幻想です。輸出の影響を否定はしませんが、日本のGDPにおける輸出比率はわずか11%に過ぎず、実は1960年代から現在までほぼ同水準で推移しています。
さらに、企業への損害どころか、2011年度の『役員報酬1億円以上開示企業』数は、震災がありながら前年度を上回った。しかも産業別では製造業が1位になっているのです。
それなのに、円高は日本経済には一大事だという理屈で、財務省や政府は為替介入を繰り返してきました。菅、野田政権だけで16兆円の為替介入するという大判振る舞いをした結果、介入額の累計は117兆円(政府短期証券)にまで膨らんでいます。しかし、これだけ投入しながら円安にはならなかった。つまり効果は限定的なのです」
そしてこう喝破する。
「『財源がないから消費税増税』だというなら、為替介入で負債を増やし続けることは、全くの本末転倒といわざるを得ません。そもそもいま政府がやるべきは増税ではない。金融緩和しても金融機関にお金が溜まるなら、政府がお金を使う主体になるべきです。そのために、積極的に公共事業でお金をばら撒く必要がある。
公共事業というと箱モノや無駄な高速道路をイメージされますが、そうではありません。原発問題で日本の死角になっている、エネルギー分野への財政出動が必要であると考えます」
本来ならば増税は、税と社会保障の一体改革だったはずだが、いつの間にか社会保障は置き去りにされた。国や政府は「日本の財政は破綻寸前」と国民を脅して増税に突き進む。
岩本氏は「財政破綻論の脅しに騙されてはいけません」と力を込める。
「国際金融の現場では、世界は日本に注目しています。債務危機で揺れる欧州の国債価格は安定しない。そのため、外国の投資家はいつでも参加でき、撤収しようと思えばすぐできる安定した市場に資金を避難させたいと考えています。そこで選ばれるのは日本なのです。
日本は2005年ごろから貿易収支を所得収支が上回るようになりました。所得収支とは海外への投資の差引額のことです。日本はここ最近常に黒字続きで、海外投資で受け取る利子や配当金だけで、貿易で儲けたお金を上回る年間10兆円以上の“不労所得”を世界からかき集めている。その豊富な資産と、モノ作りの技術の高さに裏付けされた信用があるのです」
だから“世界のお金は日本を目指す”というのだ。私たちは“世界最強”の自国通貨を持つ国で暮らしている。岩本氏のいうように自信を取り戻し、円の力を信じようではないか。
※週刊ポスト2012年10月12日号