「魚の王様」と評される高級食材だが、誤って有毒部位を食べれば中毒症状で死に至るケースもあるフグ(河豚)。東京都はこのほど、飲食業向けにフグ料理の取り扱いを定める都条例を改正し、10月1日より規制緩和した。
「『身欠き』(内臓など毒のある部位を取り除いた切り身)は、一般消費者でも自由に買える時代なのに、東京の飲食店だけフグ調理師の免許がないと出せないなんて時代遅れの条例だった」
と話すのは、都内の割烹料理店店主。今回の条例改正により、この身欠きフグに限り、専門の調理師資格がなくても飲食店で仕入れや加工、販売ができるようになった。フグの産地で知られる山口県など約30の道府県では、すでに加工品のフグであれば“無免許”で提供できることを認めていただけに、東京だけが出遅れていた。
ここまで都が規制緩和に慎重だったのには訳がある。1980年代に一度、身欠きフグの販売解除を検討したが、有毒部位が取りきれていない商品が多く出回り、断念した経緯があるのだ。しかし、「あの時と今とでは状況が違う」と、前出の店主はいう。
「フグの毒は海中のエサについている細菌が蓄積されたものと考えられていますが、最近多く食べられている養殖のフグは無毒のエサを食べているので、毒性はほとんどないんです」
厚生労働省は「フグの毒化のメカニズムが解明されたわけではない」とのスタンスを崩していないが、いずれにせよ、都の規制緩和により数多くの飲食店、中でも回転寿司チェーンや居酒屋などでフグメニューが一気に増えると見込まれている。
仕入れ元である東京・築地市場では、これから“稼ぎ頭”になるであろうフグを新規で販売する認可を得ようと、都が開く講習会に数多くの仲卸業者が参加しているという。
「今後、フグのマーケットが拡大すれば、価格競争で仕入れ値はどんどん安くなる。東京に進出してくるフグ業者もたくさんあり、より美味しいフグが安く食べられる日も近い」(築地市場関係者)
期待する声が多い半面、規制緩和による安全性の弊害を指摘する声も根強い。
「フグを加工する専門業者が急増する需要に追い付かず、除毒しきれていない身欠きフグを出荷してしまい、それを免許のない調理師が見分けられないでお客さんに出してしまう……なんて事態が起こらないとも限りません。そうなれば、“第二のレバ刺し”になって、風評被害がわれわれにも及びかねない」(都内の老舗フグ料理専門店)
2010年までの10年間で、フグによる食中毒事故は全国で336件あり、うち23人が死亡している。また、東京都が2年前に専門業者を対象に行った調査では、470匹のうち29匹で有毒部位の除去が不十分だった――という気になる結果も出ている。
さらに、昨年には「ミシュランガイド」で3年連続二つ星を獲得した東京の有名料理店が、客への提供が禁止されていたフグの肝臓を出し、それを食した女性が唇のしびれを訴えて入院。後に店主が書類送検される事件が起きている。こうした違反行為が今後増えてくる危険も十分にある。
鍋料理が恋しくなる季節――。飲食業界にはフグの安全性をどこまで担保しているかを、消費者にいち早く示すことが求められている。