現在、唯一放送されている昼ドラ『赤い糸の女』(フジテレビ系、東海テレビ)が、人気だ。その内容は、ドロドロした愛憎劇だ。
ドロドロとして昼ドラといえば、元華族の令嬢と婚約者の悲恋や復讐劇を描いた2002年の『真珠夫人』と、お互い姉妹と知らずに育った2人の女性の愛憎を描いた2004年の『牡丹と薔薇』が代表的。実は、両作品とも『赤い糸の女』の原作・脚本を手がける中島丈博さんの脚本だ。東海テレビの西本淳一プロデューサーは、中島脚本によって東海テレビのお家芸“ドロドロ”が加速したと言う。
『真珠夫人』では、たわしを皿に置いてキャベツを添えた「たわしコロッケ」が登場。『牡丹と薔薇』では小沢真珠が大河内奈々子(35才)を「役たたずのブタ!」とののしるシーンや、嫉妬した小沢が、財布にソースをかけた「財布ステーキ」を夫の食卓に並べて強烈な余韻を残した。こうした、ある種ギャグすれすれの演出意図を西本プロデューサーが明かす。
「人間の心理を徹底的に描くことがドロドロだと思います。中島さんは人間の感情、特に陰の部分を描くのが非常に巧みです。人を好きになったり嫌いになったりするのは、人間誰もが持つ普遍的な感情。中島さんは、その感情を、どう表現すれば最も効果的か考える。それが『たわしコロッケ』や『ブタ発言』といった、極端で“やりすぎ”とも思えるけれど、印象的なシーンやセリフにつながるのです」
愛憎、嫉妬、執着、自己犠牲など、“中島ワールド”全開の“ボタバラ”に主演した大河内が振り返る。
「『牡丹と薔薇』は普通のドラマとはすべてが違いました。私の役はつらい仕打ちに耐えかねて泣くシーンが多く、撮影の3分の1は泣いていました。途中で何で泣いているかわからなくなることもあったくらい(苦笑)。撮影は毎回刺激的で、演じながらあまりの内容にびっくりしていましたが、私も含め時代に関係なく、みんなドロドロが大好きなんですよね」
その言葉どおり、『牡丹と薔薇』は平均視聴率8.9%、最高視聴率13.8%(ともに関東地区)を記録。1990年代以降、昼の時間帯の視聴率10%超えはきわめて珍しい。東海テレビの服部宣之プロデューサーは言う。
「ぼくや中島さんが根っこの部分で考えているのは、人は愚かで間違いを犯すということ。でも、人は愚かだから愛されるべきですし、愚かだから一生懸命生きるべき。最近は人間の欲望をオブラートに包むような“やさしい”ドラマが多いですが、この作品では人間の心のヒダの奥まで描きたい。この生々しさが、東海テレビが48年間かけて培った伝統なんです」
※女性セブン2012年10月11日号