東日本大震災以降、再生可能エネルギーに注目が集まっている。大前研一氏は、新エネルギーの中で輸出産業として有望なのは地熱発電、原発、太陽光の3つだという。ここでは地熱発電について氏が解説する。
* * *
すでに地熱発電プラントの心臓部ともいえるタービンは、富士電機、三菱重工、東芝の日本勢3社で世界シェアの約7割を占め、トップの富士電機はニュージーランド、エルサルバドル、インドネシア、フィリピンなどで地熱発電プラントの建設を手がけている。
ところが、日本国内で地熱発電は全く発達していない。火山国の日本は世界第3位のポテンシャルを持ち、それをすべて開発すれば日本の電力需要の10%を賄えるのに、ほとんど開発されていないのだ。
その理由は、地熱資源の約8割が国立公園などの自然公園地域内に埋まっているため、発電施設が自然景観を損ねたり、熱水を取り出す井戸の掘削が環境に悪影響を及ぼしたりする恐れがあるとして、環境省が地熱発電の開発を規制してきたことである。
1972年に当時の通産省と環境庁が既設の六つの発電所を除いて国立公園内には新規の地熱発電所を建設しないという覚書を交わして以降、自然公園内での地熱発電開発はストップした。
また、地熱を開発して温泉が涸れたらどうするのか、という温泉業者の反対運動が起きるため、過去の例では補償問題の解決と環境アセスメントに最短でも10年以上かかっているのが現状だ。
とはいえ、再生可能エネルギーに対する関心の高まりに伴って環境省の姿勢も変わってきている。同省が今年3月に示した新方針では、自然景観の重要度レベルが低い地域では自然公園外から斜めに井戸を掘る傾斜掘削が正式に可能となり、さらに自然環境の保全と地熱開発の調和が十分に図られる「優良事例」については、傾斜掘削よりコストの安い垂直掘りなど公園内での開発も認められることになった。
私は自然公園法を変更してもっと規制を緩和したり、地熱発電所を温泉業者との共同出資で株式会社化したりして国内の地熱開発を容易にすることを、細野豪志環境・原発事故担当相(当時)に直接、提案している。そうすることで地熱資源の全部は無理でも、半分くらいは早急に開発すべきだと思う。
なぜなら地熱は操業度が85%(太陽光は15%、風力は19%)でCO2も出ないため、原子力に代わって常に一定出力を確保するベースロード用の発電施設になるからだ。世界シェアトップの日本企業が国内でさらに技術を磨いていけば、輸出産業としていっそう弾みがつくはずである。
※週刊ポスト2012年10月12日号