年内にも一部の大学病院などで導入される予定という「新出生前診断」。ダウン症など3種類の染色体異常を血液採取で検査できるという「安全性」と、99%判別できるという「検出率」が話題を集めた。しかし、検査の“手軽さ”ゆえに“重たい問い”を世の夫婦たちに突きつけることになりそうだ。
電話が鳴りやまない――。血液検査による「新出生前診断」が新聞に報じられた8月末以降、同検査実施予定の大学病院には問い合わせが殺到している。その反応は医師たちの予想を超えていた。
「一時は問い合わせで、産婦人科の外来機能が停止してしまったほど。『いつから始まるのか』『お腹の中の子もダウン症かどうか調べてほしい』と。高齢出産が増えていますし、反響は非常に大きかった」
ダウン症とは23対(46本)ある染色体のうち21番目の染色体が1本多い染色体異常である。約1000人に一人の確率で出生。25歳の母親で1040分の1、35歳になると295分の1に……と出産年齢が上がるほどリスクが高まることも明らかになっている。
これまで染色体異常を調べる出生前診断といえば羊水検査が一般的だった。高齢出産の増加によって、近年は年間1万6000人が同検査を受けている。
ただし、この検査にはリスクが伴う。同検査は超音波で胎児の位置を確認しながら妊婦のお腹に針をさして羊水を抜き取るため、流産の危険が0.3%ある。
「出産に危険を伴わない検査としては『母体血清マーカーテスト』もあるが、こちらは羊水検査の前段階で行なわれるスクリーニング(ふるい分け)に過ぎない。血中のたんぱく質を検査対象としているが、羊水検査の精度が100%なのに対してこちらは遺伝子異常のリスクを示すだけ。確率だけを示され、かえって産むか、産まないかの悩みを深める夫婦も多い」(産科医)
11月出産予定の東尾理子(36)が実施したのも母体血清マーカーテスト。東尾が告白した「(ダウン症乳児が生まれる可能性=)82分の1」を巡り、議論が繰り広げられたのは記憶に新しい。
新たな出生前診断は、妊婦の血中にわずかに含まれる胎児のDNAを検査対象とする。同検査を導入予定の昭和大学医学部産婦人科・関沢明彦准教授の解説。
「妊婦の血液をアメリカの検査会社(シーケノム社)に空輸。そこで最新の遺伝子解析を行ない、1週間程度で検査結果が日本に送られてきます。胎児が大きくなってからしか実施できない羊水検査(妊娠15週から)とは異なって、10週から可能です」
35歳以上の妊婦が対象。また、日本では当面臨床研究との位置付けで保険認可が下りていないため費用は20万円前後かかる。羊水検査の平均的な費用は10万円で、比較すれば決して安くはない。しかし、流産の可能性はゼロ。「安全に勝るものはない」と考える夫婦も多いはずだ。
※週刊ポスト2012年10月12日号