「日本の国家破綻(デフォルト)ですか? いつ、と聞かれても……。大丈夫ですよ、イギリスかアメリカが破綻してから心配すれば、間に合いますから」
そう笑い飛ばすのは、人気ブロガーの「ぐっちーさん」こと、投資銀行家の山口正洋氏だ。『なぜ日本経済は世界最強と言われるのか』の著者でもある山口氏が日本経済破綻論の大ウソを解説する。
ぐっちーさんという脱力するようなペンネームだけ聞いて判断してはいけない。山口氏はモルガン・スタンレーなど欧米の金融機関で活躍し、現在はプロ投資銀行家として活動している。氏の有料メルマガ(月額850円)の購読者は数千人を数え、ブログ『ぐっちーさんの金持ちまっしぐら』は、1日3万~5万人がチェックするという。
その経済眼は折り紙つきで、2007年のサブプライムショック前からブログで「世界に100兆円の損失が出る」と指摘していたほど。投資家たちの注目度は高い。
「危ないことは当然予測できました。だって、私はアメリカの投資銀行でCDO(*注1)の開発から販売まで担当していたんですから。そのなかにサブプライムなんて怪しげなものが入ってきたとき“私は断固としてそんな商品を販売しない”っていったら、懲戒解雇されちゃったんです」
そんなぐっちーさんは、この10月に初の著書『なぜ日本経済は世界最強と言われるのか』(東邦出版刊)を上梓した。軽妙な語り口ながら、昨今常識のように広まっている「経済論のウソ」を徹底的に暴いている。
例えば、日本国債が大暴落して国家破綻するという説。財務省が大キャンペーンをして、消費増税の根拠にもなったので、国民は“耳タコ”で聞かされた話だ。
国債暴落の理由としてよく挙げられるのが、「海外のヘッジファンドがカラ売りを仕掛けてくる」というもの。それに対する投資銀行家ぐっちーさんの反論はさすがの説得力だ。
「かつてヘッジファンドが恐れられたのは、100億円という莫大な手持ち資金にレバレッジを掛けて、金融機関から1000億円、場合によって5000億円ぐらいの融資を受けられたからです。しかし、リーマンショック後に金融機関は融資を一斉に引き揚げて、ヘッジファンドはどこも青息吐息。銀行が自己資本比率を13%に保たなければならないこのご時世、そんな危うい融資をする金融機関がどこにあるんですか。
さらにいえば、万が一、1000億円のカラ売りができたとしても、今の日本国債先物市場の取引額は月間140兆円、1日当たり7兆円ぐらいあるので、影響は微々たるもの。国債をほぼ独占する国内メガバンクとは規模が違い過ぎて、逆立ちしても勝てません。
日本国債売りがあると唱える人には、日本よりはるかに簡単に潰れる韓国などが先にカラ売りの対象にならない理由を説明してほしいですね(笑い)」
「日本国債を保有する外国人投資家たちが、いっぺんに売り出して暴落する」という説についてはどう考えているのか。
「まず投資のプロとしていわせてもらえば、外国人投資家が口裏を合わせて一斉に売ることなどできっこない。国債発行残高940兆円のうち外国人保有残高は約80兆円。国内金融機関の保有額620兆円に比べれば、これも規模が違い過ぎて暴落の心配など全くない。多少落ちたとしてもプロから見れば絶好の押し目買い(*注2)のチャンス。メガバンクは大歓迎でしょうね」
それから、「日本の将来に不安を覚えた日本人が海外の銀行に預金を移して暴落する」といったシナリオもあり得そうだが……。
「机上論です。1980年代に日米の金利差は5%もあったのに資産を移さなかった日本人が、金利差ゼロとなった現在、なぜわざわざ移さなければならないのか。世界から圧倒的な支持を受けて通貨高になっている円を捨てる理由はありません」
*注1:CDO/債務担保証券。社債や公社債、貸出債権などから構成された資産を担保に発行される証券化商品の一種。この資産のなかに大量のサブプライムローンが組み込まれたことが、世界的な金融危機を招いた。
*注2:押し目買い/証券市場でよく投資家が使う専門用語。上昇トレンドの相場が一時的に下落したタイミングを押し目という。そこで買い付ければ、その後の上昇が期待できるということ。
※週刊ポスト2012年10月12日号