世界的な超金融緩和にもかかわらず、株式市場は盛り上がりに欠けている。だがここに来て新たな買い手が注目を集めている。世界のファンドフロー分析に詳しいパルナッソス・インベストメント・ストラテジーズ株式会社代表取締役兼チーフ・ストラテジストの宮島秀直氏が解説する。
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依然として収束の兆しが見えないユーロ危機の影響で、世界の金融市場ではリスクオフ(リスク資産からの資金引き揚げ)の動きが続いている。機関投資家からの各国株式市場への資金流入は細っており、日本の株式市場においても、年初来の外国人投資家の買越額は9968億円にとどまっている(7月中旬時点)。年間で6兆3500億円に上る買越額を記録していたリーマン・ショック前の2007年は比べるまでもなく、東日本大震災のあった昨年をも年率換算で下回る金額だ。
リスクオフの動きは特に機関投資家に顕著だ。日本株を買っている海外投資家というと、マクロ型ヘッジファンドやCTA(コモディティー・トレーディング・アドバイザー)が目立つ程度。主に、日経225先物やオプションなどへの集中投資を手掛けていると見られる。
そんな中、英国の機関投資家にヒアリングをした結果、これまでに見られなかった日本株の買い手が現われていることが判明した。エマージング地域の富裕層たちである。彼らの資金が英国のグローバル株式投信を通じて、各国の株式市場に流れ、日本の個別銘柄も買われているというのだ。
世界的に株式市場への資金流入が減少する中、今年の4月頃から、英国のグローバル株式投信が比較的好調を維持していることが金融市場で注目されていた。そこで、世界最大級の英系投信会社にヒアリングしたところ、中国やサウジアラビアに加え、中南米や東南アジア、ロシアといった国々の富裕層から、新規資金が投信に流入していることが明らかとなったのである。
これまで、エマージング諸国というと、投資対象国としては注目されてきたものの、資金力の少なさから、投資家としての存在感は金融市場では薄かった。しかし、経済成長と共に、個人の金融資産は増加し、無視できない規模となりつつある。
例えば、ASEAN(東南アジア諸国連合)各国の家計資産は、合計3.6兆ドル(約288兆円)に達しており、タイ、シンガポール、フィリピン、マレーシアの主要4か国の個人金融資産において、2012年に入ってから世界の株式投資に振り向けられた資金は500億ドル(約4兆円)にまで膨らんでいる(年率換算)。
また、近年富裕層の拡大が著しいブラジルでも、個人金融資産に占める株式の金額が急増している。ブラジルで販売されている海外株に投資する株式投信の残高は、2005年は400億ドル強だったのが、2011年末には1600億ドル(約12兆8000億円)に達した。
いずれも、総額としては米国や日本と比較するとまだまだ小規模ではあるが、増加ペースが速く、新たな株式の買い手として、運用会社の注目度は日増しに高まっている。
※マネーポスト2012年秋号