ダウン症など3種類の染色体異常を血液採取で検査できるのが「新出生前診断」である。導入を予定する大学の関係者が語る。
「従来の羊水検査では、ダウン症を100%判定できるという“メリット”と流産という“最悪のケース”の間で逡巡しながら、妊婦側、医者側とも慎重に進めてきた。だが、今回の血液採取による新検査はハードルが低い分、何の抵抗もなく受けてしまう人が増えるでしょう。
心構えもなしに(ダウン症という)結果を受けた際、夫婦の下す決断を考えると議論の余地が残る。当初は10月から検査を導入する予定だった医療機関も、この騒ぎで開始を未定としています」
ダウン症が判明した場合に中絶するか否か。それぞれの夫婦により事情は異なるだろうし、倫理観を巡っては様々な議論があってしかるべきだ。だが、「いのちの選択」が安易な判断によるものであってはいけない。
羊水検査などの出生前診断を積極的に導入している都内の産科医が匿名を条件に取材に応じた。
「出生前診断で胎児に何らかの異常が見つかった時に、あっさりとそれを受け入れる夫婦は少ない。大抵、双方の親族まで巻き込み、揉めてしまう。私が受け持った患者の中では診断でダウン症であるとわかった瞬間、夫が取り乱して『本当に俺の子か?』と口走ったことがあった」
ただでさえ心労の嵩む状況に加えて、夫の一言で妻は錯乱状態に。結局、離婚した上で中絶することになったという。
※週刊ポスト2012年10月12日号