年内にも一部の大学病院などで導入される予定という「新出生前診断」。ダウン症など3種類の染色体異常を血液採取で検査できるという「安全性」と、99%判別できるという「検出率」が話題を集めている。一方で、今、出生前診断を巡る医療技術が既存の倫理観を揺るがしつつある。
昨年秋からは妊婦の血液を採取し、DNAから父親を特定する親子鑑定ビジネスが日本の民間企業で開始されている。同サービスを提供するローカス社の本橋康弘代表が語る。
「妊娠9週以降に、母親の血液と父親候補の血液を採取して、米国の会社(シーケノム社)に送り解析してもらう。これまでは親子鑑定は羊水検査からしか実施できず、流産のリスクも伴いました。既に約130組の申し込みがあって、精度についてはほぼ100%と自負しております。もちろん、安易な中絶を助長する技術だという批判もありますけどね」
こちらもダウン症の検査同様、シーケノム社が開発した技術だ。これらの検査が日本でも開始されることに対して警戒する医療関係者も少なくない。
昨年秋から出生前診断を実施している米国では、出産事情が大きく変わった。検査法を開発したシーケノム社の関係者が地元メディアに語ったところでは、「新出生前診断を導入した全米の病院では、胎児がダウン症と知った約98%の妊婦が中絶に踏み切っている」という。
出生前診断の専門家である米ブラウン大学ウォーレン・アルパート・メディカルスクールのグレン・パロマキ医学博士が語った。
「開始1年が経ちましたがシーケノム社の出生前診断に関してのトラブルは報告されていません。それどころか、この技術を発展させればその他の遺伝性疾患も判断することができるでしょう。例えば乳がん、卵巣がん、前立腺がんの発生リスクに関わるBRCA1、2遺伝子の検出についての研究も進んでいます」
ただし日本ではまだデータ収集を目的とした臨床試験段階に過ぎない。2年間で約1000人の検査を目標としているが現在のところ導入の時期は未定となっている。
※週刊ポスト2012年10月12日号