低価格で気軽に宿泊できることから、“出張族”にリピーターも多いビジネスホテル。ここ数年は長引く不況によるビジネス需要の落ち込みからか、客室稼働率も減少傾向にあり、観光庁の調査によると2011年は65.8%にとどまっている。
だが、東京スカイツリーをはじめ、観光名所や新しい商業施設が次々と誕生する首都圏に限っては、むしろビジネスホテルの開業ラッシュといっても過言ではない。つまり、ビジネス客だけでなく、観光客をも取り込もうというのだ。
数あるビジネスホテルの中でも怒涛の勢いを見せているのが、全国で163のホテルを展開し、10月4日に秋葉原駅前に進出したばかりの「アパホテル」。ただいま「APA頂上戦略」と称した中期5か年計画の真っただ中で、都心で手掛ける新規ホテルプロジェクトが23も同時進行中だという。
「直近では三田駅前や渋谷道玄坂上などのオープンを控え、来年は銀座界隈、2014年は新宿御苑や旧コマ劇場前に隣接する歌舞伎町など、新宿の繁華街にも進出します。とにかく好立地に数多く出店することで稼働率を上げてシェアを独占しようというのが、この頂上戦略の狙い。成果は既に表れていて、8月のホテル稼働率は東京都心部で95%を超えています」(ホテル専門誌記者)
2006年にプリンスホテルから買収した「東京ベイ幕張」も、拡張して1500室と大規模な体制にし、成田空港で増え続けるLCC客やスカイツリー見物の団体客の需要を見込む。
さらに、自ら広告塔となっているアパホテルの元谷芙美子社長は、パッケージに顔写真をあしらった【アパ社長カレー】や「麺屋武蔵」が監修した【アパ社長ラーメン】も大々的に売り出し、“記憶に残る”イメージ戦略にも余念がない。
拡大路線に死角はないのか。アパホテルの常連客が語る。
「アパは会員のポイントが現金に換えられ、還元率が他のビジネスホテルよりも良いのが魅力。大浴場や露天風呂が完備しているところもあるので、出張仕事で疲れたときには有難いのですが、夜遅くまで取引先と飲んだりしたら、部屋風呂で済ませてしまうこともあります。そもそもアパはシングルルームの部屋が狭過ぎるのが難点」
大浴場を備えたビジネスホテルは珍しくなくなり、付帯設備の充実よりも室内のゆったり感を求めるビジネスマンも多い。確かにアパのシングルルームは一般的な客室で9平方メートルと、室内にスペースの余裕はない。
他ホテルチェーンとのシェア争いという点では、アパの存在を脅かす一大勢力の存在は無視できない。それがJRグループである。
「都内と沿線圏内で『ホテルメッツ』を展開するJR東日本のみならず、JR西日本の『ヴィアイン』やJR東海の『ホテルアソシア』など続々と“越境”して首都圏に進出してきています。JRグループでは縄張りなどお構いなしの状況で、駅直結の施設が築ける利点も大きいのです」(前出の専門誌記者)
中期計画最終年度の2015年3月までにホテルの運営客室数を5万室にして、「ホテル業界で断トツの日本一を目指す」と経営幹部の鼻息も荒いアパグループ。果たしてその野望は現実のものとなるか。