今、この国では〈火事場泥棒〉が大手を振って歩いている。
7月初めの民主党分裂から3か月、橋下維新の国政進出、尖閣諸島を巡る日中対立、民自両党の党首選と内閣改造、さらにはオスプレイ配備……、この国の政治・外交はめまぐるしく動いた。その間、ある政治家は「国難に立ち向かう」と声を張り上げ、また別の政治家は「強い日本をつくる」と大見得を切った。
だが、彼らが高揚感に酔う間に、国民生活は悲惨な状況に追い込まれている。
9月には東京電力管内の電気料金が8.46%上がった。10月からの環境税の導入により都市ガス料金引き上げ(東京ガス)が検討され、ガソリン価格は7月からリッター10円以上の上げ幅となった。
輸入小麦の政府卸価格が平均3%引き上げられたことにより、年末にかけてパン、麺類などの値上げは必至だ。10月からは食用油や乳製品の値上げが始まった。制度の改定により、生命保険や自動車保険の保険料も引き上げられる。
与野党、地方の政治家たちが権力闘争に血道を上げる間に、日本人の財布から資産を吸い上げる動きが次から次へと行なわれている。その先頭に立っているのが、他ならぬ野田政権だ。
本誌は政府が作成した「極秘資料」を入手した。作成者は「内閣官房社会保障改革担当室」と記されている。野田政権が進める「税と社会保障一体改革」の司令塔である。
作成日はすでに消費増税法案の成立から1か月以上経った9月14日。まさに民自ダブル党首選の真っ只中のタイミングである。
だが、この試算は野田政権だけではなく、野党・自民党、霞が関、そして大メディアの“共同作戦”によって封印、矮小化されている。その内幕については次章で触れるので、まずは試算の中身を紹介しよう。
資料には実に奇妙なタイトルが付く。主題は〈川内博史議員の指定による条件に基づき試算した、いくつかのパターンの世帯における、給付と負担の変化(年額)〉となっている。そこには“社会保障改革担当室が自発的に試算したのではなく、川内議員の要求に嫌々応じたものである”との意思が感じ取れる。
副題は〈2011年4月における水準と2016年4月における水準との差〉とある。これから2016年にかけて、子ども手当の廃止や消費増税、厚生年金保険料や医療保険料の引き上げが次々と行なわれる。それによって、世帯タイプ別にどれだけ負担が増すかを算出した――という意味である。
たとえば、年収500万円世帯(夫は40代サラリーマン。妻は専業主婦。小学生の子供2人)の場合はこうだ(いずれも年額)。
「厚生年金保険料…4.4万円増」「医療保険料…3.3万円増」「介護保険料…0.8万円増」「住民税…6.6万円増」「消費税…11.5万円増」「子ども手当(廃止)…7.2万円の給付減」――合計は「年額33.8万円の負担増」である。
同様に、年収500万円の共働き世帯では「年額33.7万円」、年収300万円の単身世帯では「年額11万円」の負担増である。年収300万円の片働き世帯となると「年額27.3万円」増。実に収入の1割弱を新たに税金・保険料として徴収されることになる。
また、高齢者世帯は負担が増えないように見えるが、これは「年金生活者支援給付金」というまだ法案審議中の制度を、勝手に「成立した場合」と見込んで「年間6万円の負担減」と計算しているからだ。
野田首相は「消費増税分は全額、社会保障に充てる」と繰り返してきた。それを聞けば、多くの国民は“社会保障が充実するなら増税も仕方ない”と思うかもしれない。が、国民は大増税を押しつけられた上に、年金・医療などの保険料は引き上げられ、子ども手当などの福祉はカットされるトリプルパンチを浴びる。〈増税と社会保障削減の一体改悪〉というほかない。
※週刊ポスト2012年10月19日号