尖閣諸島をめぐる問題などで減ったとはいえ、大挙してやって来る中国人観光客の振る舞いにちょっと眉をひそめる日本人は少なくないだろう。だが、香港人は日本人どころではない思いを大陸の中国人に抱いているという。このほど香港を訪れたジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。
* * *
先日、香港に行ってきた。香港の反日運動や11月8日からで始まる中国共産党大会の取材ためだ。その際、新聞社の特派員として香港駐在以来の10数年越しの知人と会ったが、彼は「最近の香港人は自信をなくしている」と浮かぬ顔をして語っていた。
「どうして?」と尋ねると、「大陸の中国人が毎日毎日津波のようにやってきて、一人で数万香港ドル(1香港ドル=約10円)から数十万香港ドルもの買い物をしていくのだ。それをみていると人生がむなしくなるのだ」と知人は肩を落とした。
彼はすでに50代後半だが、まだマイホームの夢には届かないという。
「香港の中国返還(1997年7月)前もマンションは高かったが、中国に返還されてからはうなぎ登りで、いまや1平方メートルが200万円も300万円もする。100平方メートルもある家族向けのマンションならば2億円や3億円だ。とてもじゃないが、手が届かない。そのような高級な物件を買っているのが、大陸の中国人で、しかも投機用だ」
彼によると、香港に住む大陸の中国人は高級幹部の子弟や、親類が多く、大陸での汚職などで得た金をマンションや株式につぎ込んで、利殖を図っている。つい最近も、失脚した重慶市の元トップ、薄熙来氏の兄や薄氏の妻の姉らが香港に住んで、商売上で莫大な利益を得たほか、次期最高指導者と目される習近平国家副主席の姉夫妻が香港の高級住宅を数件も買い占めていると伝えられた。
知人は続けてこう語る。
「そのようなニュースや噂を聞けば、香港人として落ち込むのは当然だよ。香港はもともと英国の植民地だったから、香港の人々は政治にはあまり関心を持たないのが一般的。政治に関わるのは英国に留学するなど、英国政府から認められたエリートがするもので、庶民はもっぱら経済に関心を持つ。われわれのような庶民の夢はマイホームを持つことだが、このところの急激な値上げでそれも叶わない。
返還前は、われわれ香港人は大陸の中国人に優越感を持っていた。政治的にも、経済的にも自由だったからだが、いまやそのような自信は潰されて、落胆だけになってしまった」
実際、香港では、返還後も保障されるはずだった報道の自由も中国共産党幹部の顔色をうかがってという自主規制が一般的だ。メディアの経営者は親中国系財閥や実業家だから、中国に都合の悪いことを報道すれば、「即発行停止」や「即クビ」ということもあり得るからだ。
8月に香港の民主化活動家が沖縄県の尖閣諸島に上陸したが、その活動家らに資金を援助しているのは、中国人民政治協商会議(政協)の委員を務めている親中国系実業家だ。もはや、香港の民主化運動を裏で操っているのも、実は中国の息のかかった人物というわけだ。
実は香港の政治上のトップである行政長官の梁振英氏は「隠れ共産党員」という噂が根強く、梁氏は絵に描いたような親中派であることはよく知られている。香港は返還後50年間、「一国二制度」を堅持するといわれているが、もはや香港は中国の“植民地”になりつつあるようだ。