6月1日から、円と人民元の直接取引がスタートした。実際は、三菱東京UFJ銀行などの国内のメガバンク3行と、中国の大手銀行との銀行間取引である。これを受けて、さまざまな金融機関が、個人向けとなる人民元建て外貨預金やFX(外国為替証拠金取引)を提供し始めている。そこで、ファイナンシャル・プランナーの松岡賢治氏が人民元投資のメリットを解説する。
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人民元投資というと、「今までにも人民元建ての外貨預金やFXはあったはずでは?」と思う人も多いかもしれない。たしかに、一部のネット銀行やFX会社での取り扱いはあった。しかし、そうした商品で取引されている人民元と、この6月から直接取引の対象となった人民元とは別物なのである。
6月以前に取引の対象となっていたのは、「ノンデリバラブル・フォワード」(NDF)と呼ばれる人民元。これは中国国内の居住者や企業が使っている人民元である「CNY」に連動する、いわば仮想的な人民元である。
当然、取引量は極端に少ないため、売買のスプレッドは広く、取引コストがかかる。そのため、日本と中国では金利差があるにもかかわらず(日本<中国)、円を売って人民元(NDF)を買っても、スワップ金利はマイナスとなっていた。これでは、人民元をFXで売買するうま味は少ない。
一方、6月から解禁となった人民元は「CNH」と呼ばれる。オフショア市場で取引される人民元のことで、中国国内に居住していない非居住者でも売買ができる人民元だ(「CNH」のオフショア市場とは具体的には香港を指す。「CNH」の「H」は香港の頭文字である)。
「CNH」は、中国との貿易をしている企業も取引に参加しているため、日々の売買高は「NDF」よりもはるかに多い。500億円に達する日もあるようだ。流動性が高まるにつれ売買スプレッドも狭くなっており、「CNH」を扱っているセントラル短資FXの場合、8月は3銭程度でのスプレッドとなっている。
その結果、円売り/人民元買いのポジションを持てば、金利差を反映したスワップ金利が得られ、8月中旬時点では1万通貨で9円、つまり0.9%の金利となっている(同じくセントラル短資FXのスワップレート)。また、KaKaKu FXでは、米ドルとCNHが直接取引できる。
三井住友銀行やじぶん銀行では、「CNH」建ての外貨預金を取り扱っている。ホームページ上で金利などが確認可能なじぶん銀行では、人民元建て外貨普通預金金利は0.1%となっている(9月10日時点)。
金利的には、現状それほどの魅力はない人民元投資だが、金融市場の人民元に対する通貨切り上げに期待は大きい。短期的に大幅な切り上げが行なわれる可能性は低いが、中長期的には、じょじょに切り上げられていく可能性はある。
今年3月以降は全世界的な円高傾向を受けて、対円での人民元安が続いているが、今後も中国の中長期的な経済成長を見込むならば、外貨資産の一部に組み入れても良いだろう。現在の停滞期を脱し、再び高成長軌道に戻るのであれば、金利の上昇も想定され、高金利が復活する可能性もある。
リスクとしては、通常の為替変動リスクに加え、中国が通貨政策を変えて取引規制を強めることが考えられる。しかし、中国政府は人民元の国際化を明言しており、政策リスクは低いだろう。
※マネーポスト2012年秋号