牛レバ刺しが禁止されて3か月。それでも「レバ刺しが食べたい」という客のニーズに応え、最近は「豚レバ刺し」が出回り始めた。提供する店は増え続けており、今では「全国に100軒はくだらない」(関西の食肉流通業者)という。
法律上、豚のレバ刺しは規制外。厚労省では現在、静観の構えを見せている。
「牛に比べてまだ取り扱う店舗が少ないですし、大きな問題が出ない限りは規制する予定はありません。ただ、豚肉は生食しないのが常識ではないでしょうか」(基準審査課)
確かに「豚肉は生で食べてはいけない」といわれてきた。東京農大の村上覚史教授(家畜衛生学)が語る。
「豚は生食の場合、様々な細菌に感染する危険性が指摘されています。代表的なのはトキソプラズマ症。最近では、E型肝炎ウイルスが肝臓や血液に存在することがわかっています。E型肝炎ウイルスは、豚の成長に伴って消えていくとされていますが、キャリアのまま出荷されるケースもあり、生食による死亡事例も報告されています」
では、“無菌豚”と呼ばれることもある「SPF豚」はどうか。
「誤解されやすいのですが、特定の病原菌を持っていないだけで、決して無菌状態ではない。そもそも、菌がまったくいない哺乳類など存在しません」(村上教授)
豚レバーは安価なため、中華料理のレバニラに使われるなど、これまでも身近な存在だった。しかし、そのほとんどは加熱後に提供されており、生で食べる文化はあまりなかったという。
「周りを焙ったり、変色しない程度に湯煎して出す店もあると聞くが、豚はミディアムでも論外で、よく火を通すというのが我々の常識。完全に生で出すのはかなり怖いし、勇気があるなと思う」(前出の業者)
現在、豚レバ刺しを提供している店の店主は、「しっかりした素材と、管理がなされていれば問題ない」と胸を張る。だが、過去には豚レバーによる食中毒の報告事例もある。
前出の村上教授はこう警鐘を鳴らす。
「牛でも豚でも、哺乳類の臓器を生で食べることで背負うリスクは同じ。ただ、牛と違って豚の場合は、臓物だけでなく精肉すらも、役所がそもそも生食の対象として考えていない。その意味を忘れないでほしい」
あの美味しさを味わいたいからといって、冷静さを失わないようにしたい。
※週刊ポスト2012年10月19日号