私たちの行動は時代の空気に左右されている。デジタル隆盛の一方で次々と巻き起こる“体操ブーム”について、作家で五感生活研究所の山下柚実氏が指摘する。
でも、ゲッタマン体操の中味は、実にシンプル。「世界一手抜きの〜」という枕言葉のとおり、ポイントは肩甲骨を動かす、ということにつきるらしい。肩甲骨のまわりには「褐色脂肪細胞」があって、ふだんはなかなか動かすことのないその細胞を動かすことで、肩こりや身体の凝りが解消し、かつ全身が効率よくダイエットできるという体操なのだそうです。
その体操が話題を集めています。テレビ番組やネット上の動画で教えてくれるやり方に沿って身体を動かしてみると……すぐに効果を実感できる。たしかに固まっていた肩甲骨が動くと、凝りもとれて、スッキリ。
そんなゲッタマン体操の講座には、たくさんの人が集まってきます。パーソナルトレーニングの予約はなんと数年待ちとか。参加している人たちを見ると、「ほほう、たしかにそうか」「体で実感できた」「動かすのが楽しい」「気持ちいい」と実に満足げ。
ちょっと思い出してみましょう。ついこの間までは、「ロングブレスダイエット」が大流行していたはず……。不思議な体操が次々に出現しては、あっという間に人の心を掴み、伝播していく。たくさんの人を集める。それはなぜなのでしょう?
文字という記号と画像等の視覚的情報が大量に溢れかえっているデジタル時代。だからこそ、身体が飢えている。身体で実感することを欲している。実感が説得力を持つ。当たり前といえば当たり前ですが、視覚中心の社会になればなるほど、相対的に、「身体によって実感を得たい」という欲求が大きくなってくる、とは言えないでしょうか。
今、話題のマーケティング用語に「O2O」があります。「Online to Offline」の略です。簡単に言えば、オンライン・ネット上での宣伝や広報活動を、オフライン・現実の店で物を買うことや集客へとつなげていくマーケティング手法です。「デジタル上の情報だけではあきたらず、リアル世界へ出ていき行動につなげて満足を得る消費者の心のカタチ」——そう言い換えることもできるでしょう。
不思議な体操が次々に流行ることの背後には「O2O」的な現象があるのかも。ネットで情報を集めるだけではもう満足できない。実体験に落として納得して完結する。その結果が、不思議な体操人気なのかもしれません。