そもそもソフトバンクが携帯電話事業を開始したのは、2006年に英Vodafoneの日本法人・ボーダフォンを買収してからだった。当時のメリットはこうだ。
・事業開始時期の前倒し(参入計画では2007年4月)
・ナンバーポータビリティに対応(2006年10月24日開始)
・設備投資にかかる時間・コストを省ける
・新規顧客獲得の足がかり(一気に1500万ユーザー獲得)
・端末メーカーの確保(ボーダフォンが築いてきたメーカーとのコネクション)
当時(2006年)2月末の国内携帯電話シェアは、1位はNTTドコモ(55.8%)、2位はKDDI(27.5%)。3位のボーダフォンは16.7%と低迷していたが、孫正義社長は「5年後、10年後も3位でいるつもりはさらさらない」と言っていた。
それから6年。2012年10月、ソフトバンクモバイルはイー・アクセスの買収を発表した。これにより挙げられるメリットは、以下のとおり。
■テザリング開始日の前倒し
――2013年1月開始が2012年12月に
■LTEサービスが2帯域に広がる
――ソフトバンクモバイルの持つ2.1GHzのLTE網に、イー・アクセスの持つ1.7GHzが加わる(2.1GHzのみのKDDIに対抗)
■1.2GB/月のデータ制限を撤廃
――他社同様、1GB/3日間を超えた場合のデータ制限に変更
■LTE基地局数の大幅増
――ソフトバンクモバイルは来年3月末までに約2万局の設置を計画しており、これにイー・アクセスが持つ約1万局の基地局を合わせると、LTE基地局数は約3万局に拡大
(8月18日時点でソフトバンクが1万673局、KDDIが4536局)
■顧客数大幅増
――9月末時点での算出では2社合計3911万人となり、KDDIの3589万人を抜いて、業界2位
こうしてみると、ボーダフォン買収のときと同じ経営判断があることがわかる。そして今回、ソフトバンクはユーザー数でついに2位に踊り出たわけだが、問題はここからだ。
現在、LTE基地局数の日本全国カバー率ではソフトバンクがKDDIに圧勝する。KDDIは今年12月末までに1万局を整備する計画だが、それでも8月時点でのソフトバンクに追いつかない数字だ。
両社で“LTE戦争”が繰り広げられるなか、LTEサービスを先駆けて提供してきたNTTドコモもiPhone5を意識せざるを得ない状況になっている。というのも、9月14日以降のスマートフォン購入シェアは50%がiPhone5(キャリア比率はソフトバンク 63.9%、KDDI 36.1%、MM総研調べ)。ナンバーポータビリティでiPhoneに乗り換えるユーザーが続出しているNTTドコモでは、LTEの通信速度を現行の2倍に引き上げる基地局を来年3月末までに4000局設置することを発表した。
キャリア・端末を超えたLTE戦争だが、プラチナバンドの獲得然り、ネットワークの増強には余念がないソフトバンクが、イー・アクセスを買収したことで勢いをつける。すでにある設備を手に入れることで環境整備の時間を短縮しただけでなく、LTEのさらなるつながりやすさも目指す。