「ネット自警団」とも呼ばれそうな人々が最近、元気だ。「正義感」に固執し、それに反する言動を行なった人物を激しく攻撃し、様々な「懲罰行為」に及ぶ。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が自警団の「事件簿」を分析し、その行動パターンや心理を読み解く。
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●交友関係を洗う過程で友人女性のAV出演歴を掴む
2011年1月、立教大学の男子学生とその友人が、歌舞伎町の路上でナンパした若い女性を居酒屋で泥酔させ、ホテルに連れ込んで強姦する事件が発生した。翌月、この事件が報道されると、同じ大学に通う4年生の男子学生がツイッターで次のように発言した。
「立教生がレイプねー。別に悪いと思わないね。皆同じようなことしてんじゃん。飲み会で勢いでキスしちゃったーとかと変わんねーよクソが。女がわりー」
これを発見した「自警団」は非難の嵐を浴びせ、男子学生をツイッターのID削除に追い込んだ。さらに、大学や、内定先の大手百貨店に「電凸」を仕掛けた。「レイプを擁護するような学生を採用するオタクの会社は、レイプを認めるつもりなのか」などと難癖をつけたのである。
「そんな人がデパートのフロアにいるのかと思うと怖くて買い物ができない」という女性からの「電凸」が多かったというが、若い男性からの「電凸」の中には嫉妬の感情が混じったものもあったと思われる。
この就職難の時代に大手百貨店から内定をもらった学生は「勝ち組」と見なされる。また、就職内定者のイベントを主催し、モデルの彼女がいるとされるなど、「リア充」(リアルの生活が充実した人)のニオイもプンプン漂っていた。そのため、「自警団」の嫉妬をかき立てたのである。
この学生は最終的に内定を取り消されたが、そこに至る過程で思わぬ副産物も生まれた。友人関係が写真付きでネットに掲載されたところ、その中のある女性に対して「AVで見たことがあるぞ」という指摘が出た。さっそく、その女性がSNSにアップしていた自分の写真と、AVのキャプチャー画面がネット上で比較された。その結果、ネイルが同じである、ホクロの位置が一緒であるといった“証拠”が見つかり、AV出演歴あり、と結論付けられた。
ちなみに、グーグルで検索すると、レイプ擁護発言の学生の名前は十数万件ほどヒットし、顔写真が出てくる。社会的抹殺は今も続いている。
※SAPIO2012年10月3・10日号