最近は「熟女好き」を公言する芸人が続出するなど、「熟女ブーム」ともいえる状況になっている。そんな残暑の折、薄着の女性の胸元や脚につい目が行くこれが男の性と思いきや、「熟女好き」の頭の中はどうも違うらしい。「恋愛と脳」の分析を得意とする中野信子氏(医学博士)が脳科学的見地から解説する。
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最近、特にお笑い芸人の方で「熟女好き」を公言する人が多く見受けられます。彼らはその理由について、「普段落ち着いている熟女がテレる仕草が可愛い」とか、「人生経験が豊富で話し上手」などと言います。
一般的に、男性は「ウエストがくびれている」とか、「ヒップが大きい」など、視覚で魅力的な女性を選ぶもの。しかし、熟女が好きな方は「視覚以外」に魅力を感じている。芸人という職業柄、言葉にコンシャスなことが大きな理由でしょう。彼らの脳は女性との言語コミュニケーションを重視しているのです。
これは本来ならば女性の性質です。女性が男性を選ぶ場合、必ずしも視覚優位ではなく、話の整合性や一貫性を重視します。女性は相手が父親としてやっていけるかを確かめる必要があるからで、子供を産む女性ならではの性質なのです。
脳内で「好き嫌い」を決定するのは、側頭葉の内側奥にある扁桃体という部分です。扁桃体で「好き」と判断された感情が脳内に伝達される時、「A10」と呼ばれる神経細胞が作用します。A10細胞は快感神経とも呼ばれており、報酬系と呼ばれる脳の神経細胞「側坐核」や、中脳の一領域である「腹側被蓋野」を操作し、快楽を伝えるドーパミンを出します。この構造に男女差や個人差はありません。
ただし、右脳と左脳をつなぐ「脳梁」の太さは男女で異なります。男性よりも女性が太く、そのため右脳と左脳の連携が密であり、会話でも、女性は脳全体の機能を幅広く使っています。女性のほうが口喧嘩で強いのは、そのためです。
好きか嫌いかを判断するのに言語を重視するという点で、熟女好き男性の脳は「女性化」していると言えます。
以前から熟女人気が根強いフランスでは「Jeu de mots(言葉遊び)」に価値を置いており、恋愛でも言語コミュニケーションを楽しみます。フランス人はよく「皺が1本増えるたびに魅力が増す」とか「女性は40歳から」と言いますが、フランス人と芸人さんには、熟女を好きな理由に「言語」という共通項があると言えるでしょう。
また、男性の熟女好きは、賢い子供を育てる上で理に適っていることが、ある論文(※注)で明らかになりました。これによると、「若い男性と熟女のカップル」は知能指数の高い子供をつくる上でベストな組み合わせであるというのです。
熟女の子供ほど知能指数が高いのは2つの要因が考えられます。1つは社会・経済的要因です。熟女は若い母親よりも知識や人生経験が豊富で、精神的にも経済的にも安定しているため、子供の面倒をよく見ることができる。もう1つには生物学的要因があると考えられていますが、これは研究途上です。
視覚よりも言語コミュニケーションを重視する熟女好きの若い男性は、自分でも気づかないうちに、熟女に“賢い”子供を産み、育ててもらうことを求めているのかもしれません。
(※注)2009年、オーストラリアのジョン・マグラスらによる研究チームが学術雑誌「PLoS Medicine」で発表した論文。
※SAPIO2012年10月3・10日号