中国ではいま、9月中旬の激烈な反日デモがウソのように静まっているが、その後も、中国の海上監視船や漁業監視船が尖閣諸島海域の日本の領海に侵入するなど、今後も当分、中国側の挑発行動に悩まされそうだ。
そのような折りも折り、いまネット上では中国の次期最高指導者と目される習近平国家副主席による党元老らに宛てた対日強硬策を含む書簡が大きな話題を呼んでいる。
この書簡は習氏の動静が伝えられなかった9月初旬の約2週間のうちに書かれ元老らに届けられたとされている。習氏の“不在”の原因については、水泳中にできた背中の傷説や軽い心臓発作説、あるいは腫瘍説などが囁かれたが、それ以外にも、次期最高指導者に就任するにあたり、自身の考えが胡錦濤主席らに理解されないことに習氏が不満を募らせ、公務のサボタージュに出たとの説も伝えられている。
今回の書簡報道は、公務サボタージュ説を裏付けているともいえるが、その内容は、習氏が今後、政権を担うに当たって、絶対に実行したい政策が書かれている
最初に習氏が訴えたのは、「法を厳重に遵守する」ことで、重慶市トップだった薄熙来・元党政治局員の裁判について「他の人々と同様、法の下で平等に厳重に裁くこと」を要求している。
薄氏と習氏は同じ高級幹部子弟(太子党)だが、年長の薄氏は習氏が最高指導者に就任するのを快く思わず、習氏を蹴落とすようよう権謀術数をめぐらしていたとされる。それだけに、習氏は薄氏の裁判の判決が軽いものになるのを警戒しているとみられる。
次にあげているは民主改革の実行で、「信念を堅くし、歴史の重責を担うため、堅実に確固として政治の民主改革を実行すべきだ」と強調した上で、「中国共産党の危機を救い、中華民族の新たな未来を開くために、第18回党大会(11月8日から開催)がその一里塚になることを期待する」と述べている。
習氏は日ごろから腐敗問題に厳しく対処することを求めており、政治体制改革なくして、腐敗撲滅はないとの信念を持っているとみられるが、習氏の指す「政治改革」が西側的な民主政治の実現とはかなりニュアンスが異なる可能性が強い。
さらに、周辺諸国との歴史問題については、「全面的に寛容の心を持って、相手国の事情も理解し、着実に解決を図る」としているものの、尖閣諸島などをめぐる対日関係については強硬論を主張している。
「日本など諸外国との間で、国家主権を完全に維持する問題については将来的に軍事的に強硬な手段と総合的な外交力を結合させて、対外勢力の動きを封じ込むべきだ」と述べて、軍事力を含む強硬な手段を除外すべきでなく、日本など諸外国に一切妥協すべきではないと主張している。
香港メディアによると、これらの主張が元老らに支持されて、習氏が主導する形で激しい反日デモにつながったという。この勢いに乗って習氏ら保守勢力が権力を掌握し、胡錦濤主席ら共青団(共産党の青年組織)閥との権力闘争を制したという。これが事実とすれば、習氏は尖閣問題に対する強硬姿勢で反日デモを過激化させ、権力闘争に利用したということになる。習近平体制下の中国の対日姿勢は一層強硬になるのは確実といえよう。