注文したら、最短90秒でアツアツのマルゲリータが完成。その値段、350円。「早い&安い」が売りのファストフードタイプのピザ店「ナポリス ピッツア&カフェ」が話題だ。運営する遠藤商事は4月に直営1号店を東京・渋谷神南にオープン、その後、自由が丘、下北沢にフランチャイズチェーンを出店した。1年間で100店舗を目指す予定だという。
これまで、ピザにはファストフード形式の専門店はなかった。なぜナポリスはそれができたのか。第一に、独自機器の導入にある。ナポリスのピザは低価格とはいえ、注文を受けてから生地をのばし、具をトッピングして、窯で焼き上げるという本格派だが、技術がなくとも生地を伸ばせるマシンや、3枚同時に焼くことのできるピザ窯を設置し、人件費を抑える仕組みを構築。早さと安さの両立を実現した。もう一つは、ファストフードとして楽しめるピザを用意したことにある。
あるフードコンサルタントは、ファストフードとして受け入れられるには、“常食”や“個食”がポイントになると語る。
「ピザというと今まで、チーズや具がどっさり、豪華だけど脂っこくて、1枚が数名分というというタイプが多かった。特別食とまでいなかくとも、日常食ではなかったんですね。ですが、ナポリスの350円マルゲリータはシンプルで、モチっとしていて、日本人好みの味。安いし、大きさ的にも一人で食べられる。これなら気軽に、定期的に食べたいと思う人が増えるのではないでしょうか」
日本のピザの歴史を辿ると、宅配ピザの上陸は1985年、ドミノ・ピザの1号店である恵比寿点のオープンだった。以後、宅配店は全国に広がり、イタリアンレストランの隆盛とともにピザが一般的になっていく。そのため、ピザといえば価格帯は2000円~3000円程度、主にパーティやイベントなどで、数人でシェアして食べるというスタイルが主流になった。これに対してナポリスは、直径約25センチ、比較的シンプルな味のピザを打ち出している。
従来の常識を翻すべく新たな市場に挑むナポリスの今後について、前出のフードコンサルタントはこう分析する。
「拡大のために、客単価を上げていきたいところです。そのためには、高価格帯のピザやサイドメニューを注文してもらいたい。重要になってくるのは、注文が多くなりやすい夜の顧客でしょう。ナポリスはアルコールを充実させて、夜のお客さんを増やそうとしているようですね」
現在、市場全体を見渡しても、ピザはかつてないほど多く食べられている。2011年度、ピザ市場は2459億円と過去最高を記録した(ピザ協議会発表)。ファストフードに限らず、様々な業態の参入も相次いでいる。店内調理をする「FF(ファストフード)強化型」店舗を増やしているサークルKは、焼き立てピザの提供を開始。ケンタッキーフライドチキンは「ピザハット・ナチュラル」を展開しており、先月5店目をオープン。石窯で焼き上げる本格ピザなどが食べ放題のビュッフェ形式のレストランだ。
ワンコインで楽しめるピザ・ファストフード店の登場は、既存のファストフードを脅かす存在となるのか。
「例えば全国に3000店あるマクドナルド、当面は勝負にならないまでも、マックのお客さんにたまにはピザでも、と思わせることができるかどうかが定着の鍵になるでしょうね。どこも良い立地を欲していますから、まずは立地という点で、競合する局面が出てくると考えられます」(前出・フードコンサルタント)
アツアツの戦いは幕を開けたばかりだ。