乳がん体験者の会「KSHS」の企画で、乳房再建手術を広報するヌードフォトカードが製作された。神奈川県在住の歯科衛生士・溝口綾子さん(51才)はKSHS代表で、今回の撮影企画の発起人でもある。
KSHSとは「キチンと手術・ホンネで再建の会」の略。乳がんをきちんと治療し、美しく再建することが、ポジティブに生きることの支えになると訴え、ボランティアで乳がん患者のサポートを行っている。
「再建したらどんな胸になるのか、乳がんの女性たちが知りたいリアルな情報をヌードで伝えようと思ったんです。私自身、いっぱい悩んだけれど、がん患者会の“がん友”に助けられ、支えられてきました。だから、乳がんになった女性たちの道しるべを作りたいんです」(溝口さん)
撮影は今回が2回目で、希望者はブログやSNS、口コミで募集した。
「実は今回、私は脱ぐ予定はなかったんだけど、みんなを見てたら脱ぎたくなっちゃって(笑い)」(溝口さん)
2007年春、地元の自治体が主催する乳がん検診を受けると、マンモグラフィー撮影の後の視触診で、医師から右胸にしこりがあることを指摘された。45才のときだった。
「優しい口調だった先生が、私のしこりを触ったとたん、顔色が変わったのがわかりました」(溝口さん)
胸の細胞を取り出して調べる細胞診を受け、結果が出るまで1週間。仕事も手につかず、眠れない日々が続いたという。そして、医師から告げられたのは「残念ながら悪性です」という残酷な言葉だった。
そんな溝口さんは、先に抗がん剤でがんを小さくしてから、その後に、がんの摘出手術をするという治療方法を選択。抗がん剤の効果はてき面で、全摘手術を受ける直前の2007年11月には、しこりはかなり小さくなっていた。
「手術の後、先生から“成功しました”と聞いて一安心。でも、怖くて、ふくらみのない胸を見ることができませんでした。翌朝、体を拭くときに見ると、乳輪と乳頭は残ったものの、右胸はぺっちゃんこで、痩せた男性の胸みたいでした」(溝口さん)
半年後、溝口さんは都内のクリニックで乳房再建手術を予約。右の大胸筋の下に280ccのシリコンを挿入し、胸のふくらみを取り戻した。
「実は、もともと貧乳で胸にコンプレックスがあったので、チャンスと思って、がんではなかった左胸の豊胸手術も同時に行いました(笑い)。費用は、右胸の再建が60万円、左の豊胸を合わせて100万円弱。手術は麻酔で眠っている間に終わりました。入院は1泊ですみ、3日目から職場に復帰できました」(溝口さん)
乳房再建後、溝口さんは今度は自分が乳がん患者をサポートする側に回りたいと、KSHSを設立。再建手術の保険適用を求め、厚生労働省に陳情も行っている。
「乳がんにかかるのは40代、50代が多いのですが、医師のなかには“年齢的にもう必要ないでしょう”と言う人もいます。でも、どうか知ってほしい。乳房再建をすることで、心が救われる女性がこんなにもいることを。お金の面で再建を選べないという現状をなくし、『再建までが治療のゴール』という選択ができるようにして、全国の“がん友”に知らせたいんです」(溝口さん)
※女性セブン2012年10月25日号