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世界配信がブームの音楽業界「第2の由紀さおり」探しに躍起

 音楽CD離れが叫ばれて久しい。日本レコード協会の調べによると、音楽ソフトの年間生産額は1998年の6074億円(年間生産額)がピーク。翌年には宇多田ヒカルのアルバム「First Love」が765万枚という前人未到の記録を叩き出したほか、30のアルバムでミリオンヒットを飛ばすなど、破竹の勢いは続くものと思われた。

 ところが、2000年代に入ると状況は一変する。携帯型音楽プレーヤーやネットによる音楽配信の普及により、小さな端末1台さえ持てば何百、何千もの曲が収録できるようになったからだ。その流れとともにCD販売は“右肩下がり”を続け、2011年は2818億円と全盛期の半分以下に落ち込んでしまった。

「販売枚数の見込める大物アーティストでも、いまはベスト盤を出して100万枚超えがやっと。その他は、握手券やライブ予約の優先番号、初回限定版の写真集など『特典』を同封して販売増を狙うしかないんです。音楽ビジネスといっても、肝心の音楽の質は追求せずに、ビジネスを強化して生き延びているに過ぎないのです」(レコード業界関係者)

 方や2005年から伸び続けていた有料音楽配信市場も、ユーチューブなど無料動画の氾濫により、2009年の910億円から昨年は200億円近くも縮小してしまった。

 そんな八方ふさがりの苦境下で、一筋の光明として音楽業界が期待を寄せるのが、CD販売と同時に世界中に楽曲を配信する「輸出ビジネス」である。

 今年はファッションモデルの「きゃりーぱみゅぱみゅ」が5月発売のファーストアルバムを世界51か国に向けて配信したり、女性グループ「Perfume(パフューム)」が海外専用のレーベルを立ち上げてシングルを配信したりと、各レコード会社ともグローバル展開に熱がこもる。

 音楽評論家の富澤一誠氏が、世界配信のメリットについて分析する。

「レコード会社にとってはCDジャケットをつくるコストも省けますし、できるだけ多くの国に配信して、どこかひとつでも音楽チャートに引っ掛かれば、それを宣伝文句にして日本のCDセールスに跳ね返ってくる“逆輸入パターン”も望めるというわけです」

 昨年、歌手の由紀さおりが米国の人気ジャズ・オーケストラのピンク・マルティーニとコラボしたアルバム「1969」を世界20か国以上で配信し、iTunesジャズ・チャートで1位を獲得。その勢いが日本に逆輸入されてCDセールスが伸びたのは記憶に新しい。

「由紀さんだけではありません。高橋真梨子さんが洋楽のカバーアルバムを世界約40か国に配信したのに続き、八代亜紀さんがジャズアルバムを史上最大の75か国に配信、さらには日野美歌さんが自主レーベルのジャズが人気を呼んでメジャーデビューするなど、時代はいま“オトナの音楽”を求めています。成熟した音楽に年齢も国籍も言語も関係ないのです」(前出・富澤氏)

 そして、日本のCD業界の命運を握るのも、こうした実力派歌手と往年のファンである中高年世代だという。

「シニアと呼ぶと抵抗のある人は多いでしょう。いま、40歳以上64歳までの人口は4358万人もいて、みな『年齢なんて関係ない』と思っている“エイジフリー”な人たちです。音楽の視聴方法は時代の変化とともに選択肢が増えましたが、このシニアマーケットならぬ、エイジフリー・マーケットを征するためには、音楽そのものの質向上がなければ叶いません。

 逆にいうと、良質な商品は現物を見なければ信用しないという世代でもあり、彼らが好んで聴くオトナの音楽を作り続ければ、レコード店に並ぶジャケットのCD販売もまた復活してくると思います」(富澤氏)

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