尖閣問題を機に中国各地で相次いだ「反日デモ」は、中国特有の「チャイナリスク」を改めて露呈した。トヨタ自動車や日産自動車、パナソニック、キヤノンなどの日系工場は操業停止を余儀なくされ、イオンや平和堂といった日系スーパーや百貨店では破壊や略奪行為が相次いだ。
デモ自体は収束したものの、さらなる被害の拡大も懸念される。日本製品の不買運動の広がりを案じて、トヨタをはじめ日本を代表する自動車・電機各社の株価も軒並み下落。
日本の損害保険会社が扱う現地の日系企業向けの火災保険は、通常なら免責されるストライキや暴動などの被害まで補償する特約が付けられているが、現在、損保各社は特約の引き受けを停止している。中国リスクに対する保険が引き受けられなければ、日本企業が中国進出に二の足を踏むのも必至の情勢だろう。
実際、反日感情に中国の景気減速懸念が加わって、対中ビジネスも減速中だ。M&A助言のレコフによれば、7~9月期の中国企業に対するM&Aは件数、金額ともに4~6月期から約7割の減少になっているという。
しかし、そのような中国リスクの高まりはすべての企業にとってマイナス要因につながるわけではない。これまで中国からの過剰輸入を中心に続けられてきた日中貿易で業績が悪化していた企業にとってみれば、今回の“日中軋轢”がプラスに働く可能性が高まる。
あるいはチャイナリスクのヘッジを先取りしていた企業も、中国進出企業の危機をむしろ好機ととらえることもできるに違いない。
投資情報を提供するT&Cフィナンシャルリサーチ日本株情報部マネージャーの東野幸利氏はこう見る。
「他国の製品を踏みにじる中国人の姿がテレビに映し出されて世界中の警戒感が強まっています。日本をはじめとする各国の技術や人材が中国に入らなくなる『脱中国』の機運が高まり、将来的に中国製品のシェアが減少する可能性がある。そうなれば、高い技術力を持つ日本製品のシェア回復が予想されます」
そんな「世界での中国製品シェアの減少」が追い風になると東野氏が注目するのがいすゞ自動車(7202)とコマツ(6301)だ。
「トラックでは全世界の生産台数の半分を中国製が占めていますが、脱中国の動きが高まれば、いすゞをはじめ日本勢が相対的にシェアを伸ばすことが考えられる。東南アジアでは中国の建設機械メーカーが台頭し、コマツのシェアが減りつつありますが、これを奪い返す可能性が出てきます」
また、エアコンや冷蔵庫、洗濯機などの白物家電では富士通ゼネラル(6755)、工作機械ではツガミ(6101)などがシェア奪還の可能性を秘めているという。
中国からの安い輸入製品に押されてきた業界にもチャンスは転がっている。東野氏は「中国製品の輸入減少」で国内シェア回復の期待が高まる企業として以下の3社を挙げる。
「洋服のしまむら(8227)は中国進出に出遅れていた分、ラッキーといえます。しかも同社は国内のアパレルメーカーから商品を仕入れている。日本のアパレル業界は中国製品に圧倒されていますが、これを機に日本メーカーが息を吹き返すかもしれない。
同じく家具や建材も安価な中国製に押されていますから、比較的高品質な家具を販売する島忠(8184)や欧州製の輸入建材を扱うアドヴァン(7463)などがメリットを得ると見られます」
※週刊ポスト2012年10月19日号