東京に崖がある――そういわれてもにわかには信じられない方も多いはず。だが、よくよく調べてみると、東京には実に多くの崖があるのだ。
たとえば、東京を代表する「日暮里崖線」は、赤羽から上野にかけて巨大な崖が南北10kmにわたる。ほかにも崖の宝庫である麻布、西には「国分寺崖線」など枚挙にいとまがない。
この知られざる東京の崖が、ここに来て注目されている。東京の崖を紹介する書籍が話題になり、崖散策もブームになっているのだ。
『江戸の崖 東京の崖』の著者・芳賀ひらく氏によると、「流行りの散策だけでなく、東日本大震災以降、地質を意識する人が増えているのも遠因だと思います。東京23区内に崖ないし擁壁(急傾斜地)は2万2622か所もあります。そして大半は、建物、階段、坂などで巧みに“変装”しています」。
ちなみに、崖の定義は「高さ3m以上、傾斜30度以上」。この隠れた崖を見つけ出すのが“崖マニア”の楽しみのひとつだという。
明治期に来日した地質学者は「横浜あるいは東京に着するにあたり、まず眼に上るものは、いわゆる沿岸の峭壁」と論文で書き残しているほど、昔の東京は崖が目についたのだった。
撮影■藤岡雅樹
※週刊ポスト2012年10月12日号