缶コーヒーのオマケがいま全国の中年男性を虜にしている。プロ野球の助っ人外国人フィギュアだ。なぜそんなに夢中になって集めてしまうのか。フリー・ライターの神田憲行氏が「元小学生男子」としてその魅力を分析する。
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いま全国のおっさんたちを夢中にさせているフィギュアがある。缶コーヒーの「ジョージア ヨーロピアン ブラック無糖」が9月25日から始めたキャンペーンでオマケに付けた「プロ野球外国人助っ人フィギュア」だ。なにがおっさんをそんなに夢中にさせているかというと、その人選がシブイのだ。
ランディ・バース(阪神)、ラルフ・ブライアント(近鉄ほか)、オレステス・デストラーデ(西武)、アニマル・レスリー(阪急)、ロバート・ローズ(横浜)、アロンソ・パウエル(中日ほか)、ウォーレン・クロマティ(巨人)、ブーマー・ウェルズ(阪急)の8人。80年代前半から90年代前半にかけて活躍した外国人選手ばかりなのである。近鉄、阪急、横浜と今は無い球団があるのもポイントが高い。
大手新聞に務める38歳の男性は発売日当日にコンビニ6軒を回って全選手をコンプリート。
「クロマティを手に入れるのに時間が掛かりました。職場に並べて楽しんでいます」
プロ野球ファンで知られる有名ブロガーの山本一郎氏は「これはまさしくおっさんホイホイ」という。
「毎日コンビニに通っていますが、入荷時間に合わせて買いに来るマニアがいるらしく、まだブーマーとパウエルしか入手できていません。全体的にパリーグ感溢れる人選が良いですね」
発売元の日本コカコーラ株式会社の広報によると、
「商品のターゲットである30代40代の男性が子ども時代に輝いていたスポーツがプロ野球。そのなかで成績だけでなくインパクトのパフォーマンスなどで球団を超えた人気のある外国人選手たちを選びました。製作でも複数の写真からその選手の顔と姿を分析して造形していきました」
担当セクションにはやはり「プロ野球ファンが多い」(広報)ようで、阪急の2選手はわざわざホームとビジターの2種類のユニフォームを着せ、アニマルの成績紹介では「投球回数69回(51回まで本塁打を許さなかった)」と注記するこだわりよう。担当のおっさんたち(たぶん)がキャッキャッしながら作っていたのが目に浮かぶ。また透明の袋に入っているので選手を選んで購入できるのも、かつて「仮面ライダースナック」で買っても買ってもゾル大佐で涙目になった経験を持つ元小学生男子だった我が身としては、大変有り難い。
かくいう私もバース、デストラーデ、ブライアントで「夢のクリーンアップ」を作ってニヤニヤしているのだが、ふと、選手の向こうにある「時代への懐かしさ」に思い至った。バースが活躍していた80年代半ば、私は関西の大学生だった。将来に漠とした不安はあるものの、社会全体は無邪気に右肩上がりの経済成長を信じ、グローバリズムという得体の知れない空気とは無縁の「頑張れば何とかなる」という牧歌的な時代だった。プロ野球選手フィギュアとは、野球だけでなく時代を連想させるアイコンなのである。フィギュアを手に取って、その選手に夢中になっていた子どもの頃の自分の父親と今の自分が同い歳になっていることに気がついて、しんみりとした人もいるのではないか。
とか考えていたら、今度はUCC缶コーヒーから「最強の艦艇コレクション」が始まってる!机の上がオマケのプロ野球選手と船で賑やかだ。缶コーヒー飲みまくりのおっさんの秋である。
「プロ野球助っ人外国人フィギュア」キャンペーンはフィギュアが無くなり次第終了する。