パナソニックも大リストラに踏み切った。創業者・松下幸之助が没して23年。「企業の宝は人材」という創業理念は反故にされているようにみえる。あるいは日本を取り巻く状況が、創業理念を持ち続けることを難しくしているのか。
「なぜ若い人は幸之助さんにもっと学ばないのか、不思議でなりません」
講演や取材でしばしばそう述べているのは、ファーストリテイリングCEO・柳井正氏である。同社が展開する衣料品ブランドのユニクロは、いまやメイド・イン・ジャパンの象徴だ。
斜陽の家電業界とは対照的に飛ぶ鳥を落とす勢いの柳井氏だが、最新刊『現実を視よ』で〈ものの見方、考え方には大きな影響を受けた〉と語っている通り、松下幸之助を敬愛してやまない。
ユニクロは商品企画・生産・物流・販売までを一貫して行ない、高品質な衣服を低価格で提供することで飛躍的な成長を遂げた。これは水道経営そのものである。また柳井は雑誌のインタビューでこう述べている。
「私は好不況にかかわらず、日々社員に向かって、『君たち一人ひとりが自営業者になれ』といっています。上司からの指示を待つだけでなく、常に自分が店や会社を経営しているつもりで、何が必要なのかを考える。こうした『全員経営』こそが大事だと考えています。私が尊敬する経営の神様・松下幸之助さんも、『社員稼業』という言葉を使っていました。『自営業者になれ』というのもそれと同じ」
衆知を集めた全員経営――1972年の経営方針発表会における言葉だ。一人ひとりが自ら考え、その衆知が集約されれば、どんな危機も乗り越えられると松下幸之助は信じていた。
「パナソニックは大企業であるというおごりがあったのではないかと思う。立派な会社であることよりもお客さまに最も役立つ会社にもどらなければならない」
今年6月からパナソニックの経営トップに立った津賀一宏社長は就任時の取材でこう述べている。同社は10月から新体制がスタート。巨大化した本社機能を縮小して、約90ある各事業部に権限を持たせて市場の変化に即応する。津賀社長の狙いは“大企業病”からの脱却だ。松下幸之助が始めた商品ごとに採算を重視する経営への原点回帰を行なう。
※週刊ポスト2012年10月19日号