コカ・コーラ東海クラシック3日目、同伴競技者の谷口徹がギャラリーのマナーの悪さに腹を立てながらプレーする横で、淡々とプレーを続ける藤田寛之。周囲の雑音にも動じない落ち着きが“崩れない”という無言の重圧となり、相手へのプレッシャーへと変っていく。それが藤田の強さだといわれている。
現在、賞金ランキングのトップに立っているのは石川遼といった若手や韓国人選手ではなく、43歳の藤田寛之である。9月のANAオープンでは自身最多となる年間3勝目を挙げている。
通算14勝のうち、40歳を超えてからの8勝は勝利数として歴代6位の記録だが、40代の賞金王はジャンボ尾崎、尾崎直道に続いて3人目の快挙となる。まさに年齢を重ねるごとに強くなっているのが藤田なのだ。
なぜ40歳を超えてから勝ち星を重ねることができるのか。藤田に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「若い頃と比べて何か特別なことをやっているわけではありませんが、ずっと変えずに続けてきた頑固さが今の結果につながっているのかもしれません」
そんな藤田の中で大きな転機となったのが2008年に受けた盲腸の手術だったという。体重が10kg落ち、筋肉量も大きく減った。それを取り戻すためにウエイトトレーニングを始めた。
「肉体改造をしようということではなく、少しでも選手寿命を延ばすことが目的でした。これをきっかけに自分のことを気遣うようになったのも事実です。食生活でいえば肉から野菜に変えるように、衰えていく体のケアをするようになりました。元々、ゴルフに対する姿勢は真面目でしたが、より真面目になったと思います」
40代になって飛距離を伸ばしているといわれる藤田だが、「ウエイトトレーニングの効果もあるでしょうが、やはり道具の進化によって伸びたと思います」という。
「ただ自分の中では何も変わっておらず、階段を一歩ずつ上がってきたことが、今の結果に結びついていると思います。すぐに答えを求めて無理をすることはなく、現状と向き合ってゆっくり進んでいけばいい」
もちろん年齢を重ねていくことでの弊害もある。ゴルフは経験のスポーツといわれ、それも成功より失敗の経験が多いために年齢を重ねることで余計なプレッシャーが生まれゴルフを難しくする。
「たしかにゴルフはメンタル的な恐怖感が一番の敵です。若い頃は怖さ知らずの勢いだけでいけますが、年をとれば瞬間的な恐怖感が出て不利になります。それを克服するのがメンタルトレーニングだといわれていますが、プロゴルファーなら根拠のない自信ではなく、ミスをしないように裏づけを作ることが大切だと思っています。それには技術を向上させ、試合での結果を出す。その自信が恐怖感の払拭になると信じています」
取材・文■鵜飼克郎
撮影■太田真三
※週刊ポスト2012年10月19日号