原発再稼働と日銀の金融緩和をめぐる政策の独立性について、新聞の報道は二重基準だと指摘するのは東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏だ。以下、氏の解説である。
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原発再稼働と日銀の金融緩和をめぐって「政策の独立性」が焦点になった。この2つの分野は一見、関係ないように見える。だが、政府がどんな方向感をもって政策を進めるのか、という本質論を考えると、実は重なり合う部分がある。
原発再稼働では、枝野幸男・経済産業相が、原子力規制委員会が安全性を確認すれば、再稼働を容認する考えを表明した。政府は先にまとめた「革新的エネルギー・環境戦略」で安全が確認された原発は重要電源として活用する方針を一応、決定している。
これに対して、朝日新聞は10月5日付社説で「政治は丸投げするな」と見出しを掲げ「おかしいではないか。規制委の独立性を守るのは当然だ。しかし、それは安全性の判断について、である」と批判している。再稼働するかどうかの判断は「政治の仕事である」と主張した。同感だ。
一方、日銀の金融政策となると構図がガラリと変わる。多くの新聞は日銀に金融緩和を求める政府を「政治圧力」と表現する。つまり政府が介入するのは良くない、金融政策は日銀に丸投げせよ、と主張している。まるで「政府は責任を放棄せよ」と言っているようなものだ。
たとえば東京新聞だ。前原誠司・国家戦略相兼経済財政相が日銀の金融政策決定会合に出席した件について「独立性 侵す恐れも」と見出しを掲げ「政治の圧力は、日銀の独立性を侵さないか」との質問に「確かに金融政策をゆがめる恐れはある」と一問一答形式で解説している(10月5日付経済面)。
記事は「金融政策は専門家である中央銀行が長い目で見て判断するのが妥当というのが世界の標準的な考え方」とまで書いた。これは正しくない。インフレ目標導入国で見れば「政策目標は政府または政府と中銀が協議で決めて、目標を実現するための政策手段は中銀に委ねる」(たとえばアラン・ブラインダー著『金融政策の理論と実践』)という国が多数派である。実際、英国やノルウェーはインフレ目標を政府が決めている。
記者が日銀に洗脳されてしまうと、こういう記事が出てくる。現場の記者はもう少し、きちんと金融政策について勉強してもらいたい。
新聞が原発問題では政府の丸投げを批判しながら、金融政策では政府の介入がけしからん、というのは明白な二重基準である。いったい政府の役割をどう考えるのか。
私は「原発であれ金融政策であれ、政府が重要政策の方向性を示すのは当然」と考える。なぜなら政府こそが国民の代表によって組織され、平和と繁栄、安全な暮らしを実現するために権限を委ねられた存在であるからだ。
※週刊ポスト2012年10月26日号