国内

原発は丸投げ、金融は“圧力”と政府叩く新聞は二重基準だ

 原発再稼働と日銀の金融緩和をめぐる政策の独立性について、新聞の報道は二重基準だと指摘するのは東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏だ。以下、氏の解説である。

 * * *
 原発再稼働と日銀の金融緩和をめぐって「政策の独立性」が焦点になった。この2つの分野は一見、関係ないように見える。だが、政府がどんな方向感をもって政策を進めるのか、という本質論を考えると、実は重なり合う部分がある。

 原発再稼働では、枝野幸男・経済産業相が、原子力規制委員会が安全性を確認すれば、再稼働を容認する考えを表明した。政府は先にまとめた「革新的エネルギー・環境戦略」で安全が確認された原発は重要電源として活用する方針を一応、決定している。

 これに対して、朝日新聞は10月5日付社説で「政治は丸投げするな」と見出しを掲げ「おかしいではないか。規制委の独立性を守るのは当然だ。しかし、それは安全性の判断について、である」と批判している。再稼働するかどうかの判断は「政治の仕事である」と主張した。同感だ。

 一方、日銀の金融政策となると構図がガラリと変わる。多くの新聞は日銀に金融緩和を求める政府を「政治圧力」と表現する。つまり政府が介入するのは良くない、金融政策は日銀に丸投げせよ、と主張している。まるで「政府は責任を放棄せよ」と言っているようなものだ。

 たとえば東京新聞だ。前原誠司・国家戦略相兼経済財政相が日銀の金融政策決定会合に出席した件について「独立性 侵す恐れも」と見出しを掲げ「政治の圧力は、日銀の独立性を侵さないか」との質問に「確かに金融政策をゆがめる恐れはある」と一問一答形式で解説している(10月5日付経済面)。

 記事は「金融政策は専門家である中央銀行が長い目で見て判断するのが妥当というのが世界の標準的な考え方」とまで書いた。これは正しくない。インフレ目標導入国で見れば「政策目標は政府または政府と中銀が協議で決めて、目標を実現するための政策手段は中銀に委ねる」(たとえばアラン・ブラインダー著『金融政策の理論と実践』)という国が多数派である。実際、英国やノルウェーはインフレ目標を政府が決めている。

 記者が日銀に洗脳されてしまうと、こういう記事が出てくる。現場の記者はもう少し、きちんと金融政策について勉強してもらいたい。

 新聞が原発問題では政府の丸投げを批判しながら、金融政策では政府の介入がけしからん、というのは明白な二重基準である。いったい政府の役割をどう考えるのか。

 私は「原発であれ金融政策であれ、政府が重要政策の方向性を示すのは当然」と考える。なぜなら政府こそが国民の代表によって組織され、平和と繁栄、安全な暮らしを実現するために権限を委ねられた存在であるからだ。

※週刊ポスト2012年10月26日号

関連キーワード

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン