何らかの症状で病院を受診する患者の数は、1日平均約141万人(2010年・厚労省調査)。高齢化も進み、医療、医師に対する要望は日毎に高まっている。そんな昨今、患者と医師の関係に微妙なすれ違いが起きるケースが増えている。
テレビや新聞、雑誌では頻繁に健康特集が組まれ、体調が悪いと感じたら、インターネットで症状などを検索することも簡単になった。その結果、医師を悩ませているのがドクターショッピングと呼ばれる行為だ。別名、「青い鳥症候群」ともいわれ、主婦が安い商品を探してスーパーを駆け回るように、より良い医師を求めて、病院を複数受診することを意味する。
もちろん患者が不安な気持ちからネットで調べる行為自体は何も悪くない。しかし、やり過ぎてしまう人もいるのである。名古屋市のあるクリニック院長が明かす。
「うちに来るまでに既に5か所を受診し、薬は30種類持っていて、『どれがいい薬か教えてほしい』と聞かれた。薬は出した医師に責任があって、他の医師がどうこういえません。この手の患者は、自分が納得するまで医者探しを続け、医師を信頼する気がまるでない」
なんとか治したいという気持ちはわからないではないが、これでは医者に嫌われてしまうのも当然だ。中には医師を値踏みする患者もいるという。都内の総合病院の消化器科に勤務するA医師が、腹部の違和感を訴える高齢の男性患者に、「大腸に小さなポリープがある」という検査結果を伝えた際、この患者は「先生も見つけましたか」と、にやりと笑ったという。
「まるでテストに合格したといった態度。なんのつもりか知らないが、医者だって人間ですから不愉快です。重い症状を抱えて順番を待つ他の患者もおり、医療行為の妨げにもなっている」(A医師)
ネットや新聞、雑誌による影響は他にもある。自己診断するなど“理論武装”してくる患者が急増し、医師を困らせているのだ。以下はよくある事例だ。
「欧米のがん最新治療法を特集した新聞の切り抜きを持参し、『先生もこれをやってくれ』と頼まれた。日本でその治療はできないというと勉強不足だと罵られた」(都内・外科医)
「症状を調べて血痰が出たので肺がんだと自己診断。風邪の咳でのどが炎症を起こしているだけだといくら説明しても納得せず、かかりつけ医を替えると言い出した」(都内・内科医)
※週刊ポスト2012年10月26日号