その瞬間、周囲を囲んでいた記者たちは一様にポカンとした表情になった。
「2年目のジンクスという言葉があるなら、使わせてもらいたいです」
「CS(クライマックスシリーズ)で使えるかどうかテストしたい」という栗山英樹監督の“温情起用”で10月5日の楽天戦に登板した日本ハム・斎藤佑樹だが、4回6失点の大炎上。翌日には出場選手登録を抹消され、CSでの登板は絶望的となった。
その時に斎藤が口にした言葉が「2年目のジンクス」だったのだが……。
「エース指名されたのに5勝止まりという成績では批判されるのは仕方ないが、それにしても自分でいっちゃうかなァ」
「1年目だってそれほど大した成績じゃないんだから(6勝6敗)、“2年目のジンクス”といわれてもねぇ……」
と、番記者からは失笑まじりの感想が漏れた。
国語学者で『問題な日本語』(大修館書店)の著書がある北原保雄氏が語る。
「そもそも『2年目のジンクス』という言葉は、自分で使うものではありません。最近のスポーツ選手のコメントには、“他人が自分を評価する時の表現”を自分で使ってしまうパターンがしばしば見受けられます」
そうした“自己評価発言”として有名なのは、2003年、6連覇が懸かった世界柔道選手権を前にした谷亮子(現参院議員)が語った次の言葉。
「前人未到の6連覇を達成します」
今年のロンドン五輪でも五輪3連覇を達成した伊調馨が、「偉業を達成しましたね」という記者の質問に、
「はい。偉業を達成しました」と答え、一瞬、何ともビミョーな空気が漂った。
「(アトランタ五輪でマラソン銅メダルの)有森裕子さんの『自分で自分を誉めてあげたい』は、“本来は自分で自分を誉めるものではない”ということを踏まえての発言ですからいいと思います。斎藤選手がどうしても『2年目のジンクス』を使いたかったというならば、“2年目のジンクスではなく、自分の力不足でした”といえば良かったと思います」(前出・北原氏)
※週刊ポスト2012年10月26日号