日本企業は「選択と集中」を標榜しながら、会社の組織の「選択と集中」には取り組まず、商品の「選択と集中」だけを行なうという間違った経営戦略をとっていると大前研一氏は指摘する。そんな氏が、経営戦略の中心テーマが会社機能の「選択と集中」に移っている欧米のアウトソーシング事情について解説する。
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欧米企業では商品の「選択と集中」は当たり前となり、経営戦略の中心テーマは会社の機能の「選択と集中」に移っている。
キーワードは「CXM(シー・エックス・エム)」だ。「C」はコントラクト(Contract=契約)、「M」はマネージメント(Management=管理)で、真ん中の「X」には「M(Manufacturing=製造)」「S(Sales=販売)」「R(Research and Development=研究開発)」など様々な言葉が入る。「CMM」なら製造管理契約、「CSM」なら販売管理契約、「CRM」なら研究開発管理契約という意味である。
つまり、日本企業のように研究開発・設計・製造・販売・サービス・営業などの機能別組織をすべて自前で持つのではなく、他社に任せたほうがコストが下がる機能は丸ごと「外注」する。あるいは、自社に強力な機能がある場合は他社からCXMを請け負う。そうした会社の機能の「選択と集中」が、ビジネス新大陸の新潮流になっているのだ。
とりわけ製薬業界では、CRM(CRO=Contract Research Organizationという呼称も)が先行している。新薬の研究開発や臨床試験や各国での承認申請など、気の遠くなるような時間と経費がかかるプロセスを外注することでコスト削減とスピードアップを図っている。
アメリカの製薬大手イーライリリーなどは、新薬のアイデアそのものも、クラウドソーシング(インターネットで不特定多数の人に業務を委託する雇用形態)によって世界中の研究者から募集している。
それに加えて、クラウドコンピューティング(インターネット上にあるサーバーを利用して作業を行なうサービス形態)の発達により、今や回線1本で世界中の企業や人材と繋がって業務をアウトソーシングできるようになった。
欧米ではBPO(Business Process Outsourcing/企業が自社の業務処理を外部の業者に委託すること)が一般的になり、基幹でない業務は、できるだけ自社で抱えない形態にシフトしている。
※週刊ポスト2012年10月26日号