「5月にドイツ人社長が来てからというもの、社員はみな恐怖政治に怯え、いつクビ切りされるか分からないとビクビクしていますよ」
こう声を潜めるのは、日本IBMで働く40代の技術職社員。ドイツIBMで「コストカッター」の異名を取ったマーティン・イエッター社長は、日本でも大規模なリストラを断行するのではないかとの憶測に、「それはプレスが言っているルーマー(噂)だ」と答えているが、すでになりふり構わぬ「指名解雇」事例は続々と明るみになっている。
10月15日、成績不良を口実に解雇されたとして、40~53歳の元社員3人が解雇無効と賃金の支払いを求めて東京地裁に提訴した。
7月に解雇通告されたというAさん(元営業支援部門)の状況を聞くと、いかにIBMが強硬なクビ切り策をしているかが分かる。
■7月20日(金)午後5時に直属の上司に呼び出される。上司とは直前まで翌週の仕事の打ち合わせをしていたので、その続きを別室で行うのだと思い席を立つ。
■会議室に行くと、なぜか上司が部屋をノックする。中に誰かいるのだと気付き、入室すると部門長と人事担当者が書類を開いて座っている。上司は「連れてきました」とだけ言い残し、そそくさと会議室を後にする。
■部門長にうながされるまま着席すると、書類を入れた封筒を渡され、「中身を見てください」と言われる。
■封を開けると、「解雇予告通知」および「解雇理由証明書」が入っている。呆然として内容を確認する(以下、要旨)。
<会社は、貴殿を2012年7月26日付で解雇します。貴殿は業績が低い状態が続いており、その間、会社は職掌や担当範囲の変更を試みたにもかかわらず業績の改善はなされず、会社は、もはやこの状態を放っておくことができないと判断しました>
■キツネに抓まれた思いで「なぜ解雇なのか?」を問うと、人事担当者は「まぁ、聞いてください」と文面を事務的に読み上げ、具体的な解雇理由の説明もないまま一方的に終了。
■会議室を出される際、「上司が付き添うので、(終業時刻の)5時36分までに会社を出てください」と通告され、呆然としたまま退社。
■翌週、改めて事情を聞こうと出勤すると、入館証が使えず社内に入れない。受付で上司を呼び出そうとしても、「上司、その他におつなぎできないことになっています」と回答される。
わずか30分足らずの間に解雇通告を見せられ、会社から締め出されてしまう、いわばロックアウト型の“即日指名解雇”である。Aさんは「25年以上もの毎日、熱意を持って働き続け、家族設計も行っていた私には、とても受け入れられません」とコメントする。
Aさん同様に大阪の事業所にて解雇通告を受けたBさんは、あまりのショックに会議室で卒倒してしまったという。救急車すら呼んでもらえず、ソファーに寝かされ、しまいには上司付き添いの帰りのタクシー内で、「明日から会社に来なくていいから……」と、意識が朦朧とする中、念を押されたという。
「会社は7月に1人、9月に9人、10月に1人の合計11人に解雇通知をしています。みな『成績不良』が解雇理由ですが、具体的な事例は説明を拒否しており、真の理由は人員削減計画に沿った人減らしであることは明らかです。現在1万4000人いる従業員を3年間で1万人まで削減する計画を持っているという噂も聞きますしね」(労働組合幹部)
同幹部によると、解雇通知書を突き付けられた社員の中には、「解雇予告手当」として1か月分の給与の振り込み通知のほか、指定の期日までに自ら退職する意思を示した場合は、「退職加算金の提示」をチラつかされた人もいるという。
日本IBM広報部にリストラの実態について聞いてみると、
「(解雇は)就業規則に基づいての措置。日々、技術が進歩しているIT企業なので、それに合わせて社員のスキルも高めていかなければなりません。その中で社員の入れ替えは行っていますが、リストラではありません」
との回答。雇用条件がシビアな外資系とはいえ、裁判の行方次第では日本企業を取り巻く労働環境にも思わぬ影響を与えかねない。