世界金融危機以降、日経平均はおろか、NYダウや、中国をはじめとする新興国の株価指数も、いっこうに回復の兆しをみせない。世界的に株式市場が低迷するなか、世界の著名投資家たちはいったい何を狙っているのか。グローバル投資の最前線をチェックする。
「世界一の投資家」として名高いウォーレン・バフェット。その投資スタンスは、競争力があって長期的な成長が見込める銘柄を割安で仕込み、持ち続けるという「バイ&ホールド」だ。
『世界金融危機 彼らは「次」をどう読んでいるか?』の著書がある、評論家の宮崎正弘氏は、こう分析する。
「特に米国への愛国心が投資の行動原理のひとつとなっており、2011年には金融危機に喘ぐ米大手金融機関ウェルズ・ファーゴの株を買い増し、バンク・オブ・アメリカにも50億ドル(約4000億円)を出資するなど、周囲をハラハラさせるほど積極的な行動に出る」
実際、バフェットは、震災後の日本を訪問した際、「日本株はこれからが買い」などと大方の読みとは真逆の行動をとっている。また、これまでコカ・コーラやP&Gをはじめ事業内容のわかりやすい銘柄に投資する一方で、IT企業にはほとんど投資してこなかったが、2011年11月にはIBMへの投資を表明。続いて紙媒体の縮小が著しいなか、米地方紙の買収を次々と進めている。しかし、振り返ってみれば、バフェットは誰も目をつけなかった銘柄で巨万の富を築いてきただけに、その言動は決して無視できない。
一方、「新興国投資の教祖」と呼ばれるマーク・モビアス(フランクリン・テンプルトン・インベストメンツ)は、「興味を持って見ているのは、ASEAN(東南アジア諸国連合)と発展の初期段階にあるフロンティア市場だ」と発言しており、ベトナムやインドネシア、ナイジェリアなどを現在の注目国として挙げている。
とはいえ、著名投資家すべてが積極的に株式投資しているわけではない。かつて「ヘッジファンドの帝王」として名を馳せたジョージ・ソロスは、「ここにきて静観の構えだ」と前出・宮崎氏はいう。
「自らのファンドを縮小し、欧州国債を一部保有している以外、その75%を現金にしている。さすがのソロスでも判断がつかず、動けないということだろう」
そんなソロスの盟友だったジム・ロジャーズは、早くから中国株の可能性を指摘してきたが、最近の雑誌インタビューでは、「株に関しては『売り』を徹底している」として、「私自身、銀やコメなどのコモディティ(実物資産)を所有している」などと発言している。
このように積極的に投資するカリスマが出てこない背景を、本誌マネーポストで「セカイの仕組み」を連載中の作家・橘玲氏はこう解説する。
「2000年代に入り、不動産やエマージング(新興国)、資源などのバブルが発生し、それらはすべて崩壊した。莫大なリターンをもたらしてきた“市場の歪み”が減ったことで、次にどこに大きな波がくるのかわからなくなっている。資本が成熟すれば、ヒーローが出なくなるのも当然でしょう」
それでもバフェットは、今年2月、自ら率いるバークシャー・ハサウェイの株主にあてた「手紙」で、次のような見方を披露している。
ここにきて価格が高騰している金については「使い道が限られるし、何も生みません」と否定的な見解を示す一方、シェールガス(非在来型天然ガス)の産出で天然ガスが値下がりしたことに伴い、自らの投資が失敗したことを認めている。
「そこから読み取れるバフェットの見解は、金は高すぎるし、天然ガスは安すぎるというもの。今後ヘッジファンドなどがそれらの反転を狙って逆張り投資に打って出る可能性もある」(前出・橘氏)
このように、名だたる投資家たちがさまざまな言動を見せるなか、個人投資家もいち早くその動きを参考にできるか。混迷を極めるいまこそ腕の見せどころである。
※マネーポスト2012年秋号