新作映画『アウトレイジ ビヨンド』が好評の北野武監督。もちろん芸人・ビートたけしとしてずっと以前から国民的人気者だ。そのたけし氏は、生活保護の不正受給問題など「みっともないこと」を平気でするようになった日本社会の変質を嘆く。そしてそうした変化は貧乏人だけではないと指摘する。
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やっぱりある意味では、アメリカの民主主義やら資本主義がこの国をおかしくしちまったんじゃないかと思うこともあるね。歴史のない国のモノマネをして、かえって国が悪くなったんだよ。
大量生産・販売の大きなスーパーやらがドンドン幅を利かせて、古くからの商店街はなくなっちまった。大資本のおかげで安くていい物が簡単に手に入るようになったけど、その代わりに店と客の人間関係は消えちまった。小泉サンや橋下サンみたいな強引な政治もいいけど、規制緩和や改革で壊れちまうものもあるってのも本当なんだよ。
昔は用もないのになじみの店のおばちゃんと世間話をしたりする日常の風景があった。もしスーパーやコンビニで店員にやたらと話しかけたりしたら、やれストーカーだ、クレーマーだと勘違いされちまうもんな。そりゃ殺伐としてくるに決まってるよ。
近所のつながりが薄れれば他人の目を意識しなくなって、自分の「品格」すら気にならなくなる。そんな悪循環が起こっているわけだよ。
貧乏人だけじゃなく、金持ちだって下品になった。昔の金持ちは、今のIT長者みたいに金を見せびらかすことは決してしなかった。
昔の人たちは、金が不浄のものだということを本質的に知っていたんじゃないかな。江戸っ子がよく「宵越しの銭は持たない」なんていってたのも、それは「貧乏だけどカネのために生きてるわけじゃない」っていうせめてもの誇りだったんだと思う。
だから本当の金持ちは地味な格好をしていたし、逆に派手な格好をしている金持ちを「品のない成金だ」とバカにしたわけ。金持ちであることの「後ろめたさ」みたいなものが、成功した人の品格を作っていたのかもな。
それが資本主義万々歳の世の中になって、成金とバカにされた話が「サクセスストーリー」ともてはやされ、下品なヤツが大手を振って歩くようになる。世の中全体が下品になるのは当たり前だよね。
※SAPIO2012年11月号