惜しくもノーベル文学賞受賞を逃した村上春樹さん(63才)だが、世界的な人気を誇る彼の評価に変わりはない。村上作品が海外で読まれ始めたのは、2002年に発売された『海辺のカフカ』からだった。
それまでも村上作品は海外でも迎えられていたが、世界中で広く読まれ始めたのは、この前後からだ。文芸評論家の加藤典洋さんが解説する。
「この作品は海外、特に欧米で評価が高い。最も読まれている作品のひとつといってもいいでしょうね。カフカの父親を殺したのは誰なのか、イワシとアジが空から降ってきたり、ジョニー・ウォーカーという男が登場したり、不思議なことが次々と起こるのですが、その奇妙で、わかりにくい面白さが、クールだと受け止められているんです」
英語版『海辺のカフカ』はニューヨークタイムズの「ザ・ベスト・ブック・オブ・2005」に選ばれ、2006年に前述のフランツ・カフカ賞を受賞する。授賞式で、ノーベル文学賞の有力な候補となったことについて聞かれた村上さんはこう答えている。
「正直言って、どんな賞にも興味ない。世界中に読者がおり、読者が自分にとって本当の賞ですから」
そうした意味では、『ノルウェイの森』に続いて読者から最高の賞をもらえたのが『1Q84』だ。2009年に発売され、これまでに文庫と合わせ737万部を超えるベストセラーになっている。マーケティングに詳しい関東学院大学教授の新井克弥さんが言う。
「『1Q84』のときにいわれたのが、“ハングリー・マーケティング”。いったい何巻まで続くのか、どんな内容になるのか、一切事前に明らかにされなかった。要は枯渇感を与える手法で、『出すぞ、出すぞ』と言いながらなかなか出さない。『次の村上は何を出すんだ』と待たされるので、発売と同時に堰を切ったように売れるんです」
『ノルウェイの森』は口コミで売り上げが急増したが、『1Q84』の時点では「村上作品は絶対読む」というファンが圧倒的なまでに増えていたのだ、しかも世界中で。それは常に新しい読者を獲得してきた成果だろう。
※女性セブン2012年11月1日号